初めての殺人
「人を殺さず力を取り戻す方法はないの」
『ないな』
すっぱりと言い切られて私は肩を落とす。
「力を取り戻さなかったらどうなるの」
『未登録の契約種が野放しの状態が続くから、世界がより危険になるな』
「でも、今までだって未登録の契約種はたくさんいたでしょ。組合の契約者がしっかり取り締まってくれてるから大丈夫なんじゃないの」
『いや。未登録の奴らは共食いを繰り返し、どんどん強くなっている。そのうちそこんじょそこらの契約者では立ち行かなくなって、死者もわんさか出るぞ』
まじか。それは大変だ。犯罪が横行する世の中になってしまう。
『あとお前が死ぬ』
「まじか?!」
さらっと付け加えられた言葉に驚愕する。それだいぶ重要だろなにオマケみたいに言ってるんだよ。
『契約種を取り込むことでご主人は力を取り戻せる。契約者がいると取り込めないから、契約者を殺して未契約の状態にしないといけない。だから殺さないと言うのは無理だな』
「契約済みのやつじゃなくて、未契約のやつら取り込んで力取り戻すのは?」
だったら契約者殺さなくてもいいんじゃない?
『未契約の契約種を探すのは骨が折れるぞ。気配が感じずらいからな。その点契約者には必ず契約種が近くにいるんだから探すのが楽だろう』
「いや、楽とかそんなんじゃなくてさ」
多少遠回りでもいいよ。人殺すより全然マシだから。
『あんまり時間をかけていると本当にお前死ぬからな』
「タイムリミットあるんかい」
詰んでますねこれ。人殺すの確定コースでは?
『そんなに悩むことか? かなりの人を殺すことにはなるだろうが、その結果世界から契約種は消えて、平和になるんだぞ』
「ざっと何人くらい殺せば大丈夫なの」
『二千くらいか?』
「にせん?!」
殺人鬼とかいうレベル超えてるよ。比喩とかじゃなくまじもんのバーサーカーじゃんか。
『ある程度力が戻れば契約種は自然とご主人に吸収される。そこまで力が戻るまでは自力で取り込まなければならないからな。運良く強い契約種を取り込めればもう少し減るかもしれないぞ』
「めっちゃ強いのばっか取り込んだら何人で済む?」
『だとしても五百はくだらないだろうな』
「五百……」
五百人と世界の平和ね。
五百人殺して何人が悲しむのかは知らないけど、きっと世界の人口を越えることはない。
世界を救えるのなら五百人殺してもいいのか。
『迷っているようだが、拒否権はないぞご主人。俺と契約した時点で殺すことはもう決まって……』
「わかった。やる」
言った後、沈黙が走った。
『覚悟はできたのか』
「うん。私は殺すよ」
副産物ではあるけど、世界が救われるのだ。
利益があるのだからいいだろう。私が殺した人は私のことを許さないかもしれないけど、私と無関係の人はきっと私に感謝してくれるはずだ。
それに第一、私まだ死にたくないし。
て言うかぶっちゃけそっちの方が本当の理由だ。こんなわけわかんない契約種と契約までして四肢と 取り戻したのにすぐ死ぬとか無理。
どうせこのままじゃ世界やばいんだからいいよね、私が生きるために人殺しても。世界を救うことを免罪符にしても。
『いやに清々しい顔だな。俺から言っておいてなんだが、殺すことへの嫌悪はないのか』
「ないね」
私は死にたくない。
それに、より多くの人が助かる方がいい。
有名なトロッコ問題という思考実験がある。私は、あれの正解はレバーを引いて一人を殺し、複数を助けることだと思ってるし、もし自分がその場面に出くわしたら迷いなくレバーを引くだろう。
だって命は平等なんだから。なら数が多い方が助かるべきだ。
自分の命に関しては例外だけど。
「きゃぁ〜」
覚悟を決めたその瞬間、雰囲気ぶち壊しの気の抜けた声と、スマホのシャッター音。
「ラスボス誕生を目にしてしまったぁ。覚悟決めた樹ちゃんの顔まじで最高天才神」
『……おい』
「あぁ、やめてくださいハクさま! 今その麗しいお声で呼ばれると樹ちゃんの顔面と2連パンチで私失神して失禁します」
「きたな……」
もしそんなことが起こったら友達辞めようか迷うレベルできたない。
「……それで」
落ち着きそうにない楓を横目に私は腕に話す。
「契約者って普段どこにいるの」
『それを俺に聞くのか』
だって、私知らないよ。契約者が普段何してるのかとかどこにいるのかとか。そもそも一般人と契約者の違いもわからないし。
『もっと適任がここにいるだろう』
「え?」
一つ声をこぼして、思い立つ。そうじゃん、契約者に詳しいのは私でもハクでもなく、契約者が主人公の漫画を愛読していた、
「楓、なんか知ってる?」
「もちろん」
先ほどの緩み切っていた顔とは一変。楓は胸をどんとはり、頼れるアネキと言った雰囲気をかもしだす。
さっきまでの醜態を見ているから、醸し出されているのはあくまで雰囲気だけなんだけれど。
「漫画の一ページ目、契約者が連続して何者かに殺されているというニュースが流れるの。そこで描かれていた最初の被害者は……」
その夜、私は一人の人間を殺した。嫌悪感はなかった。罪悪感もなかった。
だって、私はラスボスだもの。




