18:VSチップルぱあと3
でもキッポは、チップルの短剣を強く打って落とさせると、チップルの手を引いた。短剣を届かぬ先の方へ、蹴り飛ばしてから。
「どうして、キッポ! 絶好のチャンスじゃないの!」
「言ったでしょ、リムノ? もう血は見たくないって」
キッポのそのことばを聞くと、チップルは、
「だからそれが、キッポ君の長所でもあり短所でもあるんです。私はまだまだ、戦えますよ!」
チップルの拳に黒い霧が集まる。キッポはちょっと引いて、宝珠をかざした。黒の霧と白の光が、交互に混ざりあう。また、魔法同士のぶつかり合いになったんだわ!
「キッポ君。さっきとどめを刺さなかったことを、後悔すると思いますよ」
黒い霧で、視界が無きに等しくなって来た。闇の中で、話し声だけが聞こえて来る。
「この闇は、私たちの地下世界に似ています。こんな場所に封じ込められていた、痛みや悔しさを感じて欲しいです!」
闇の中、白い光がぽつりと点った。
「チップル君! だったら一緒に光を探そうよ! これ以上戦ったとしても、何も得られないよ……」
「中途半端な慰めはいりません! キッポ君。こちら側に来なさい!」
「復讐は何も生まないよ! どうして分かってもらえないの!?」
「分かっていないのは、キッポ君の方です!」
白い光がぽつんとある暗闇の中で、再びチップルが手にしたらしい短剣と、ハルバードがぶつかり合う、キン、キンと言う音だけ、リアルに感じられる。わたしは、ううん、わたしたちはただ、この争いが早く終わってくれることを、祈るより無かった。
「私だって、キッポ君と戦いたくない! 考え方を変えて、世界を見てください! どこにでも裏と闇は存在するんです。それすら、うなずいてもらえませんか!?」
「ボクも分かるよ。闇があるから光が点ることを! だからって、チップル君の行いが正しいとは、とても思えない! もう、お仕舞いにしよう!」
白い光が鋭い光条になって放たれた! ちょうどチップルがいる辺りに向けられて。
「ぐッ!」
「チップル君!?」
暗闇が、溶けるようにして晴れて行った。最初は明順応が追いつかなかったけど、見えてきた光景は……。
チップルが横たわっている。首筋から血を流しながら!
「しっかりして、チップル君!」
ハルバードを投げ捨て、キッポはチップルの元へ向かった。わたしたちも駆け付ける。
チップルはぜーひゅーぜーひゅーと、苦しそうに息をしながら、虚ろになってしまった眼をキッポへ向けていた。口元が薄く開く。
「――キッポ君。どこか私は……。キッポ君に滅ぼされるのを待っていたのかもしれないな。そんな、ごほっ、思います」
「しゃべらないで! 今、傷口をふさぐよ。ちょっと待ってて!」
「そんなことはいらない……。私はキッポ君に憧れていたんでしょうね、きっと。人間が言ったように、本当の意味で分かり合える、ごほっ、欲しかった」
言いながら、チップルは血を吐いた。肺まで傷が達しているのだろうと思わせる、鮮やかな紅い血だった。枯葉色のローブを染めて行く。
「今、同朋たちに連絡を入れました。もう止めるように、と……。これで、良かったんだよね? 最期に教えて。――私は。この世に生を受けた資格があったのか、を……」
「当たり前じゃないか! 誰にだって親がいる。両親に望まれて、産まれて来たに決まってるよ! ボクも、リムノも、ルカスも。チップル君も!」
それを聞いたチップルは、また血を吐いてから、
「――ありが、ごほっ! 違う出会い方をしていたら。私とキッポ君は、友人同士になれたかもしれませんね。今となっては……、叶わぬ願いですけど……」
チップルの呼吸が、浅く遅くなって来た。死期が近付いて来たのかもしれない。キッポは、
「その手をどけて! 傷から血が出過ぎてるよ! 本当に、死んじゃ……」
言いかけて、チップルの傷口を見た。顔色が変わる。
「待っててね。諦めないで。宝珠の力で治してみせ」
チップルが遮った。
「こんなことに、宝珠を使わないでいい。それは私たちが求めても、永遠に得られることの無い至宝。キッポ君の財産なん、ぐふっ、しまっておいて……」
「チップル君……」
キッポがつぶやく。
「見えて来たよ、魔族たちが。私の生命、契約通り持って行かれるんだね。――お別れだよ。ありがとう、キッポ君。人間。迷惑だったかもしれないけど。これが黒いフォクスリングの生き方なんだよ……。認めて、がはっ! 言わない。ただ、覚えておいて。こんな生き方があるって。――ばいばい、キッポ君」
言い終えるのを待つかのように、チップルのカラダが半透明になり、消えた。わたしたちはただ呆然として、ことばも出てこなかった。――チップル。あなたの言う通り、違う出会い方をしていれば、わたしたち仲間になれたかもしれないわね。言っていたように、叶わぬ願いであったとしても。――さようなら、チップル。
キッポが鼻をすすった。
「ボク……。ボクは無力だ。苦しみ・悲しみに耐えていたチップル君を、救うことすら出来なかった。ボクに宝珠を持つ資格なんて無いよ……」
老師がやさしく口を開く。
「キッポ君。そう思えることが、あなた自身の良いところなんですよ。でも、責任を感じる必要はありません。チップルはチップルとして、生を全うした。たとえ生命を、魔族に持って行かれたとしても。あなたは今出来る最善を全て尽くした。――確かに。見方によれば、それはチップルの言う通り、短所かもしれない。それでも、それがあってこそのキッポ君なんです。大丈夫。自信を持って、産まれた部落へ帰りなさい。宝珠を持つ資格はこれより無いほど、充分にあります」
こくりとキッポはうなずいた。地面に透明なしずくが、ぽたぽたっと落ちる。
「行こうぜ、キッポ。倒されてしまったフォクスリングたちを、弔ってから」
「そうね。手厚く処置をして。さあ、行きましょう」
こくこくと、キッポは首を縦にした。――わたしはキッポの手を取ると、強く握った。大丈夫よ。わたしたちは隣にいるから。
ルカスもキッポのアタマをぽんぽんしている。キッポが顔を上げた。口元がわずかに緩んでいる。涙眼のまま。
「ありがとう。ボク、チップル君の分も、生きなきゃね」




