17:VSチップルぱあと2
チップルは続けた。
「フォクスリングを賞金首にしたのも、私たちです。人間は愚かしい。賞金に眼がくらんで、各地で捕まえて来てくれましたよ。ははは。全く笑ってしまいますね。私たちに血が似ているフォクスリングは、契約の際、非常に使い勝手がいい。キッポ君をあの時、生け捕りに出来ていれば、もっとことは簡単に済んだんですが。キッポ君は、強いドルイドの力を持っている。私たちの仲間に是非加えたい。――今からでも結構です。そんな人間とのつながりなど捨て、新たな世界を作るために私たちと共に力を使ってみませんか? キッポ君はどこか私に似ている。殺したくはありません」
奇妙な沈黙が訪れた。この場にいる全員が、キッポのことばを待っている。
「ボクは……。チップル君の言うことも分かる。さっきも言ったけど、落ち度があったのも認める。でもね? チップル君のつながりを聞いてると、悲しくなって来るよ。そんな方法しか無かったのか、って。正直、これ以上チップル君と戦いたくない。血を見れば血を呼ぶもの。もう、止めよう? ボクもチップル君に似ていると思う。だから。だから、もう、止めよう、よ……?」
それを聞いたチップルは、大きく息を吐いた。
「それがキッポ君の長所でもあり、短所でもありますね。私たちは、これからの在り方に必死なんです。誰にしもやさしく接するその態度。時には相手を傷付けることもあると言うことを、覚えていて欲しいですね。――私も終わりにしたい。しかし、生き残るために止めるわけにはいかないんです!」
元通りになったスケルトンを背後に控えさせ、チップルは、
「どうしても争いになってしまうようですね。人間? ここまで話したんです。生命を取ることまではしませんよ。今のうちに視界から消えなさい」
ルカスが長剣を構えながら、
「そうはいかない。キッポはオレたちの弟分だ。兄貴として、『はい、さようなら』は出来ないからな」
わたしも、
「キッポはわたしたちの大切な仲間。仲間の危機を救うのは当然でしょ?」
「人間は。争いを同族同士で起こすかと思えば、妙な部分で同朋意識を持っている。私には理解出来ませんね。どうして生命が危ない中に、わざわざ飛び込むんですか?」
わたしはきっぱりと言った。
「通じ合った仲間だから。これが答えよ」
「チップル……。お前本当は、真の意味での仲間が欲しいんじゃないのか? だから、似ているキッポを懸命に仲間へ、誘っているんじゃないのか?」
ルカスがチップルをしっかり見ながら言った。――そう。その通りだと思うわ。
「仲間はいます! そんなことでは無い!」
チップルの心情が揺れているのか、再び波動が来た。かまいたちで口元が切れたようだ。でも、この程度でひるむわけにはいかない。
「チップル君。ボクは仲間にはなれないけど、戦いを止めることは出来る。他の部落での虐殺を止めさせて、元の通りになろうよ」
キッポのことばに、チップルは動揺したようだった。
「また、地下世界に帰れと? キッポ君はそう言うんですか?」
首を横に振ったキッポは、
「償いをして、この地上世界に部落を作ればいいよ。いつか……。いつかはみんながきっと、認めてくれる。生き方の違いも、在り方も」
「キッポ君の言う通りですよ、黒い坊や。選択肢は無限大にあります」
宝珠を掌に納めて、老師も言った。
「そんなこと……。そんなこと信じられるわけ無いでしょう! 認めてもらう? この血にまみれた手をもってしてもですか!」
「だからです、坊や。だから償いをしなさいと、キッポ君は言っているんです」
老師が悲しげな表情で言った。
「――そんな。償いなどしない! これが私たちの生き方なのですから。それを否定することは、私たちの存在を全否定することと同義です!」
強くチップルは叫ぶ。――泣きながら。
「償いなどで、社会の中で生きるすべを持つには、もう遅過ぎます。それに私たちは、生命をもらうこと、それで魔族と契約することでここまで来た。その方法を変えろと言うのは、ムリな相談です。『私たちが私たちで無くなること』ですから。どだい、どうあっても叶えられない方法ですよ……。お前たち。キッポ君は殺すな。抵抗出来なくするだけでいい。ほかの者は斬り捨てろ。得られた生命を少し分けてやる。人間。逃げなかったことを後悔しますよ。そして婆さん。血は使えなさそうだけど、力量は認めましょう。拷問にかけてでも、ドルイド魔法の全てを教えてもらいますよ。行け!」
チップルはそう言うと、また右腕を上げようとした。しかし、老師の魔法がまだかかっているらしい。動きを取れないままでも、スケルトンたちに命令を下した!
「いい加減にしろよな。数が多いから、それだけでも厄介なのによ」
襲いかかって来たスケルトンたちの剣先を縫うようにしながら、ルカスはスケルトンを砕いて行く。わたしにもかかってきた。それを『氷化』で砕いてから、落ち着いて。魔道の額冠を脳裏でざっと眺めてみる。こんな時は……。ぴったりのがあった!
「ルカス! スケルトンを一ヶ所に集められる?」
「そのつもりだ! 勝算があるんだろ? 氷の魔道で砕いてくれ!」
「長として。炎よ、凍りなさい……。了!」
「今! どいて、ルカス!」
わたしは老師の魔法とほぼ同時に、『氷嵐』を発動させた。危ういところで、ルカスが横っ転がりで避け、すぐに立ち上がって構えた。でも、スケルトンたちは猛吹雪の中で動きが止まったかと思うと、再び砕かれた! これで元通りになることは出来ないわ。だって、灰にまでなって、散って行ったもの。打ち捨てられた、ラウンド・シールドとファルシオンが、スケルトンのいたあたりに散らばっている。持ち主を無くしたそれらの武具は、とても悲しく見えた。
いけない! キッポ!
そんなことを考えてる場合じゃ無かったわ。チップルは動けないながらも、何かを唱え続けている。キッポは宝珠で、生まれ来る闇を消していくのに精一杯だ。ざっと安全を確認したルカスが、キッポの前に立つ。老師も背後で守るように。
「もう、お仲間はいねーぜ。負けを認めろ、チップル」
「チップル君。ボクの旅が終わったら。今度はチップル君の部落をどこに作るか、考える旅に出ようよ……。ね?」
チップルは笑った。
「キッポ君。何を同情めいたことを。まだ終わっていませんよ? 再びスケルトンを召喚されるのがイヤなら、私と戦いなさい!」
憤怒の気合で動けるようになったチップルは、キッポに向けて短剣を突き出した。キッポはハルバードの柄ではじく。そうか! 長い武器であるハルバードを使わせないように、短い武器で攻撃してるんだ! さすがチップル。狡猾さに長けてる。
わたしは『精神崩落』の魔道をかけようとしたんだけど……。
「人間! ヘタなところで手出ししないでくださいよね。これは私とキッポ君のみの戦いなんですから!」
――読まれてた。ルカスの顔を見やる。軽くうなずいた。老師は着物の袖口で、目頭を押さえていた。宝珠を片手に持ったまま。――そんな。1:1の戦いを、終わるまで見ないといけないの!? しかも、協力することも出来ないで!?
「『闇から吹く北風』ってな」
「?」
「あの部落の老師。たとえ賛同者だったとしても、キッポには真実を伝えていると思わないか? さっき言ったことば、フォクスリングの未来も、見事に当てている」
「『北風』がチップルってこと?」
わたしはルカスに訊いた。
ルカスはうなずくと、
「好きで賛同者になったんじゃないだろうな。部落の生命を守るため、止む無くなった、いや、『された』と言う方が正しい気もする」
「そういえば、宝珠のことも言い当ててたわね……」
それに触発されたわけじゃないだろうけど、キッポの宝珠が強く輝いた。チップルが眼に手を当て、ふらついている。キッポ! 倒すなら今よ!




