16:VSチップルぱあと1
聖堂の中に、チップルが一瞬で現れた。スケルトンを2体、伴って! スケルトンは老師に向かい、斬りかかって行った! 老師が素早く印を結ぶ。剣を大きく振りかぶったまま、スケルトンは動きを止めた。こんな……、こんなタイミングを、チップルが狙ってたなんて!
チップルは軽く舌打ちすると、
「せっかく引導を渡して差し上げようとしたんですが。余計なマネをしないで頂きたいですね、婆さん」
聖堂の外から、いくつもの悲鳴が聞こえて来た! 『死を弄ぶ者たち』が、本気で攻めて来たみたい!
「止めさせて! チップル君!」
キッポが叫んだ。
「キッポ君。こちらに来るのであれば。早く答えを出すことですね。部落全員の生命を、私たちが頂いてしまう前に」
「この年寄りの生命と引き換えにしても、そんなことはさせませんよ。黒い坊や!」
聖堂の空気が震えた。動きを止めたままだったスケルトンが、粉々に砕け散った!
「リムノ! ルカス! チップル君とはボクが話し合う! 外の虐殺を止めさせて!」
「つまらないことはしない方がいいよ、キッポ君」
外に出ようとしたわたしとルカスの前に、スケルトンが召喚された! ルカスが長剣をなぎ払う。大腿骨を砕かれながらも、スケルトンは炎を吐いた。聖堂の壁にぶつかり、爆発が起こる。でも、スケルトンは倒した! 早く外に出なきゃ!
「小賢しいですね。人間の分際で」
突然、カラダの動きが鈍くなった。この魔法……。『氷柱花』! でも、『守護盾』と『不可視鎧』がはじき返した。一瞬だけで動きが戻る。わたしとルカスは外に飛び出した!
「な……。ひどい!」
「お構い無しかよ!」
聖堂の外、部落はもう、地獄絵図さながらだった。女・子ども関係無く、スケルトンが斬りかかっている! 逃げまどう中、何人かドルイド魔法で抵抗しているのが、せめてもの救いだろうか。わたしは『氷化』の構造式を発動させた。魔道の額冠がリミッターカットされているのが分かる。周囲にいたスケルトンたちが青白く氷に包まれ、砕け散った。ルカスは部落の外に逃げられるように、スケルトンを倒しながら部落のフォクスリングを誘導していく。
「スケルトンの相手はオレたちがする! 魔法を使える者、戦える者以外は、部落の外へばらばらに逃げるんだ! 早く!」
斬り結びながら、ルカスが大声で言った。わたしも『氷化』を放つ。――ちょっと! このスケルトンたち、一体どのくらいいるって言うの!? キリが無い!
聖堂から、キッポが走り出て来た。それを追うように、チップルも出て来る。
「この部落の生命は、全部頂くことにします。人間。諦めなさい」
「そんなことはさせない!」
チップルが片腕を大きく上げた。拳に黒い霧が集まって来る。それを阻むように、キッポが宝珠をかざした。部落全体が暗闇に包まれつつある。その闇を、キッポの宝珠が跳ね返した。魔法と魔法のぶつかり合いになってる!
「ムダです。キッポ君」
「まだ分からないよ! だからお願い! もう止めさせて!」
「こちら側に来ますか?」
「そんなこと、出来るわけ無いよ!」
「キッポ君は殺したくない。賢明な判断を早くするべきです。――クッ!」
「この部落の長として。やれるものならやってごらんなさい、黒い坊や。道連れにしてでも止めさせますよ!」
チップルの動きが止まった! 暗闇が吹き飛んで行く!
「婆さん。やってくれますね。そんな力を、今まで隠していたのですか!」
老師も出て来た。緑色の宝珠をかざしている!
「力の使い道を考えなければ、勝負は自ずと決まりますよ。――おっと。逃がしません!」
瞬間移動して去ろうとしたチップルを、老師が止めたようだった。スケルトンたちの動きも止まってる! 動きを止めたまま、瓦礫が崩れて行くような音と共に、部落にいた全てのスケルトンがばらばらになって行った! 老師の力がチップルより勝っているようだ。
「――勝負ありましたよ、黒い坊や。諦めるのはあなたの方です」
「まだまだ。魔族と契約して得た力、今こそ見せて差し上げましょう!」
チップルも負けてはいない。何か呪文を唱えている。また黒い霧が集まり始めた。わたしとルカス、キッポは背を合わせるようにして、油断無く身構える。
キシキシと音を立てて、砕けていたスケルトンが元通りになりつつある。部落全体が暗くなって来た。
「こんなところで使うには惜しいですが。頂ける生命が外に逃げてしまっては、仕方がありません。あなたたちの生命をもらい受けることにします」
「何度でもやって御覧なさい! この生命、坊やと共に失う覚悟が出来ているのですから」
黒い霧が覆い始める。背中の汗がイヤな感じに冷えて来た。
「キッポ。跳ね返せるか?」
「分からない。この魔法、どんなものかまだ分からないから」
「わたしの魔道も。何を使えばいいか分からないけど、リミッターカットされてるこの額冠を信じるわ」
「本気出して行くぜ。チップルを打ち倒せば、カタが付くからな!」
わたしたちは、それぞれの力を確かめ合った。大丈夫。力が揃えば、怖いものなんて何も無いもの!
「うっ!」
「老師!?」
キッポが叫んだ。老師が胸を押さえて、苦しそうに呼吸している!
「婆さん。余命いくばくも無い生命でしょうけど、最初にもらいます。この魔法に抵抗出来ますか?」
「止めて!」
キッポの宝珠が強く輝いた。じわじわと闇を消しつつある。わたしは『精神崩落』を数倍の強さにして発動させた。ルカスが長剣を構えながら、老師の元へ素早く向かう。
「――全く、小賢しいですね。『精神崩落』のおかげで、魔法が途中で切れてしまったではないですか」
その一瞬で充分。老師は咳き込みながらも、再び立ち上がった。守護するように、ルカスが老師の前に立つ。
「けほっ。何と愚かな……。魔族と契約したら、最後に狙われるのは自身の生命だと言うのに。分かっていてしたのですか? 黒い坊や」
「それ以上の存在になり得る、足がかりにすぎません」
平然とチップルは言い放った。
「あなたたちは」
再び黒い霧を集めながら、
「あなたたちは、生き方が違うと言う理由だけで、私たち黒いフォクスリングを地下世界に追いやり、のうのうと生きて来た。私たちの苦しみも、悲しみも知らず。――これは、あなたたちへの復讐なんですよ。私たちが地上世界に君臨するための!」
「だからって!」
涙を流しながら、キッポが叫ぶ。
「こんな方法を取らなくたっていいじゃないか! 他の方法もあったはずだよ……。もっと、お互いが分かり合える方法が!」
再びキッポの宝珠が輝く。チップルの霧がかき消された。
「それを拒んだのはどちらですか? 私たちも平和裏に進めて行きたかった。それを無視したのはどちらですか? つまらない伝説にしがみ付き、あまつさえ私たちを『滅んだ』として、全て存在を消してしまったのはあなたたちの方でしょう!」
黒い波動がチップルの叫びと共に、円形状に広がった! 押されて倒れそうになる。真空のかまいたちのように、わたしたちはカラダを斬り裂かれかけたようだ。
「今。同時期に各地で、私たち同朋が行動を起こしているはずです。変革の時が来たんですよ。――キッポ君。これがこの世の中の裏です。ハーフリング・エルフ・ドワーフ・人間・その他もろもろの種族。そしてフォクスリング。全員の生命を糧として、新たな世界を私たちは作るのです。キッポ君。それでも……、それでも拒みますか?」
わずかに悲しみをにじませ、チップルが言った。
「当たり前だよ! ――確かに。確かにボクたちの落ち度もあったかもしれない。だからって、何の罪もない生命を奪うなんて、許されるわけ無いじゃないか!」
両の頬から、かまいたちの烈風で出来た切り傷からの血を流し、キッポが涙と共に再び叫ぶ。
「それではもう少々、裏を教えましょう。なぜ私が、キッポ君が手にした『薫り高き宝珠』の存在を知ったと思います? 表の世界にも、裏とつながっている者がいるんですよ。私たちは『賛同者』と呼んでいますが。その『賛同者』からの情報です。キッポ君が最初に訪れた部落、どうして虐殺されること無しに、身を固められただけで済んだか分かりますか? 長が情報を提供してくれたんです。時間稼ぎのために、聖堂だけは壊させてもらいましたが、部落の生命は取らなかった。小賢しい行動に出た人間と、魔族との契約のために、小娘の生命は頂きましたけどね。キッポ君。全ては最初から仕組まれていたんです。君たちは私たちの手の上で、踊っていたに過ぎません。――これだけ伝えても、こちら側に来ませんか?」
そんな!
ひどい……。あの部落の長が、賛同者だったなんて……。
でも。これでやっと謎が消えたわ。どうしてチップルが、宝珠の存在を知っていたのか、と言う疑問が。そんなわけがあったのね。今まで感じていた、何か思い出さなきゃいけないこと。見落としていたこと。それがこれだったんだわ。




