15:キッポの宝珠
「じゃあまたボクが、先に行くね。あとちょっとだと思うんだけど……」
がさがさ草木をかき分けて行く。キッポの耳が横方向に、油断無く動いてる。そんなのが見て取れた。進みながら、
「森の声が大きくなったよ。『悪いことが起こる』って、怖がってる声が、だんだん大きくなって来た」
「危険が近いんだな?」
「部落の位置は分かったの?」
わたしたちの問いかけに、
「うん。近くまで来てるよ。もう少しで……、見えた!」
ホントだ。前の部落みたいに、独特な形の家々が建っていて、中央部分にこの部落の聖堂と思われる、円形の建物がある。だいぶ開かれた土地で、畑が作られていた。わたしたちの手前側。清水が流れていて丸木橋がかかっていた。良かった。まだチップルの手は伸びていないみたい。畑仕事をしていたフォクスリングが、何事かと眼を丸くしている。キッポは、
「見習いドルイドの旅をしております、キッポと申します。老師にお会いしたいのですが」
大きな声で伝えた。仕事の手を休めたフォクスリングは、
「こんなところまでよく来たね。今、案内するよ。橋を渡っておいで」
わたしたちはうなずいた。恐るおそる細い橋を渡って、畑の畔道に着いた。手の泥をぽんぽんとはたき落としながら、さっきのフォクスリングが来てくれる。
「ようこそ。見習いドルイドの旅をしてるなんて、キミで何人目かなあ……。老師は聖堂にいらっしゃるから。一緒に行こうか。――そちらの人間さんもいいのかな?」
わたしとルカスは首を縦にした。案内してくれているフォクスリングは、
「老師のことばで、旅が終りになるといいね。あ、そうか。何かを探さないといけないんだったね」
「はい。『薫り高き宝珠』です」
聖堂まで着くと、
「聞いたことが無いなあ。さ。老師とよく話してごらん」
「ありがとうございました」
扉をノックしてくれた。
「老師。ドルイドの旅をしている、お客さんです」
「入って頂いて」
女性の声だった。少ししわがれている。
中に入ると、香の薄い煙が立ち込めていた。入って正面に黒曜石で作られた祭壇。天窓もあった。薄い雲母で作られているみたい。そこから入ってくる光が、不思議な形と葉をしたキッポぐらいの大きさをした植物に、静かに当っている。
「ようこそ。大変だったでしょう。人間様もご一緒なのね。お付き合い頂いているのかしら?」
「はい。とても助かっています」
老師は微笑むと、改めてルカスとわたしを見て、
「ドルイドの1人として御礼申し上げます。ありがとうございます」
そのことばにアタマを下げた。キッポが話し出す。
「ドルイドの旅をしております、キッポと申します。今、色の黒いフォクスリングが暗躍しております。危険が迫っているとも考えられますゆえ。そのことをまず第一に。――そして、以前立ち寄った部落で、『薫り高き宝珠』を探すようにと御教授頂きました。私に更なる手がかりをお教え願えませんでしょうか?」
眼を細めた老師は、
「動き始めたのですね。伝説で終わっていた種族が。情報助かりました。守りの力を高めておいた方が良さそうですね。――それでは。そこにある『球花の木』を御覧なさい。あなたが今までの経験で得たいろいろなこと。それが認められれば、宝珠を得られることでしょう」
――!
そんな方法で得られるのね。ドルイドって本当に不思議。でも、キッポ。頑張って!
老師とわたし、ルカスが見守る中、キッポは球花の木に近付いた。想像だに出来なかったことが起こり始める。緑色をしていた葉っぱが、マーブル模様になって虹色に輝き始めた。つぼみの1つが白く強く光り始める。キッポは印を切ると、
「見習いドルイド、キッポとしてお願いします。『薫り高き宝珠』を与えてください。道しるべを与えてください……。了!」
聖堂の中が、虹色の光の洪水に包まれる。まぶしくて良く見えなかったけど。つぼみが花開いたみたい。輝きが一層増した。光がくるくると変わりながら、虹色があふれていく。
「ありがとうございました」
キッポの声が聞こえた。光が次第に薄れていく。葉っぱの色が戻って来た。ただ、キッポの手に乗っている何か、――おそらくは宝珠が、白く輝きを放っていた。その光も、ゆっくりと静まって来る。
「資格を認められたようですね。キッポ君、おめでとう」
老師のことばに、改めてキッポを見た。瞳に涙を浮かべながら、宝珠をじっと見つめている。――やったわね! キッポ!
「良かったな、キッポ」
「ホント。ついに手に入れられたのね」
ルカスとわたしも、暖かい思いと一緒に言った。キッポの元へ行く。
「リムノ、ルカス。これ……」
宝珠を見せてもらった。キッポの手に収まるぐらいの種子の形をしていて、わずかに白く輝いている。
「すごいわね。おめでとう、キッポ」
「これで一人前になれたんだな」
ルカスがキッポをぽんぽんする。
「その通り。この時を待っていましたよ、キッポ君」
どこからともなく、聞き覚えのある声が。――チップル!




