14:わたしの疑問
森の中は冷たい空気、ツンとしている空気に満たされていた。でもやっぱり、曇天のせいか、あるいはアルムテよりもずっと北方の、最果ての森のためか、少し寒くなって来た。ルカスが気を配ったように、革のマントを買っておいて良かった。わたしは首元まで、マントをかき抱く。ルカスはずっと旅慣れているためか、
『マントなんて着られるか。剣を抜く邪魔になるだけだ』
と言い、今までと同じ服装をしている。時折胸元の、青い宝石のペンダントが身を覗かせた。ルカスのお守りらしいけど、詳しいことは聞いていない。何か、魔道を封じたお守りなのかしら?
いつか訊いてみようと思いながら、キッポ、ルカス、わたしの順で、だいぶ森の深くへ入って来た。小動物たちが時々、キッポじゃなくわたしとルカス、『人間』に驚いて姿を見せ、慌てて木々へと消えて行く。そっか。冬支度をもう、始めてるんだ。
そう言えば。
わたしは不意に疑問を抱いた。どうしてチップルは、キッポが探そうとしている、そして手に入れようとしている、『薫り高き宝珠』の存在を知っていたのかしら? 魔道士が口に出したのは、チップルから聞いていたためだと思うけど……。
『どうしてチップルが知っていたのか』
何か解せない。キッポはあの時、一度も自分からは言わなかった。それなのに、チップルの方から言って来た。何か。――何かとてつもない重要なことを、わたしたちは忘れているような気がする。忘れちゃいけないこと。何だったろう? 懸命に記憶の糸を手繰る。何かある。思い出さなきゃいけない何かが。
確か、チップルはこう言ってた。
『今のうちにいろんな経験を積んで、『薫り高き宝珠』を手にしてください。それを私たちは待っています』
と。
『私』じゃないんだわ。『私たち』が待っているって。チップルの正体。ルカスがつかんだ手がかり。そう。色の黒いフォクスリングは『死を弄ぶ者たち』だと言うこと。――彼らの本当の目標。それはキッポじゃなくて、『薫り高き宝珠』なのかもしれない。もちろん、
『経験を積んだキッポ』
も含まれるだろうけど……。何かを見落としている。一番大切な何かを。
「キッポ。森のことばは聞こえるのか?」
わたしの取り留めない夢想は、ルカスの声で破られた。そうよ。しっかりしなさい、リムノ。今はそんなことを考えてないで、行動に集中するの! 『危険だ』って言われていたじゃない!
「うん。葉っぱがさっき教えてくれた。もうちょっと西の方だって」
「危険は無いのか?」
キッポは視線を落とす。
「分からない。でもみんな、『怖い。痛い。助けて』って言ってるよ。急いだ方がいいと思う」
「近いんだな? よし、急ごう。そうだ、リムノ。前みたいにならないよう、守りの魔道、使えたらかけておいてくれないか?」
わたしはうなずく。
「わたしもそう思ってたわ。白魔道に、『不可視鎧』があるの。相手の攻撃が当りにくくなるから。心理・精神系のためにも、『守護盾』もかけておくわね。『精神崩落』とかをかけられても、大丈夫なように。あとは……」
防御だけじゃなく、攻撃系も。
「これは初めて使う魔道なんだけど。――『武器高攻』も。相手に武器が当りやすくなるはずよ」
わたしは、今出来る限りの魔道を使って、防御と攻撃を万全とまでは行かないまでも、高めておいた。これならルカスとキッポの攻撃も、力が増すというもの。わたしは魔道のの額冠にに手を当ててみた。少しだけ熱い。もしこの先、危険があったら、この前みたいにリミッターカットされるのかしら? そんな事態は避けたいけど……。でも、チップルがどんな動きを見せるか分からない。わたしも覚悟を決めておかなきゃ。
「ありがとう、リムノ。ハルバードが軽くなった気がする」
「そうだな。今まで以上に動体視力が高まった感じだ」
キッポとルカスが言った。
「わたしが高められるのはここまで。額冠がリミッターカットされたら、もっと高度な魔道を使えるかもしれないけど、今はこれで限界よ。――頼むわね。わたしも攻撃系の魔道を使う覚悟は、出来ているから」
「分かった。オレには扱えない部類だ。信じてる」
ルカスとキッポは、真剣な面持ちでうなずいた。




