第19話 四匹との出会い
第19話 四匹との出会い
Cafe Lykkeができて、まだ間もない頃。
リーサは一人で店を切り盛りしていた。
朝は薪を運び、店内を掃除する。
パンを焼き、スープを作る。
そして、誰かが訪ねてくれば、その人の話を聞く。
タロットを広げ、ルーンを読み、必要なら魔法を使う。
けれど――。
「一人では、なかなか大変ね」
夜。
リーサは椅子に座ったまま、ぐったりしていた。
「今日は三人も相談に来たもの」
テーブルには洗い終わっていない皿。
床には薪。
厨房には片付け途中の鍋。
「明日はちゃんと片付けよう……」
そのときだった。
――ガタン!
「え?」
店の外から大きな音がした。
リーサが扉を開ける。
「誰?」
森の暗闇から、何かが飛び出してきた。
「うわあああ!」
リーサの目の前を、小さなウサギが猛スピードで駆け抜けていく。
その後ろから――。
「待てー!」
一匹の大きな犬が追いかけてきた。
「え?」
さらにその後ろから、木の枝を揺らしながら猫が走ってくる。
そして最後に――。
ドスン!
大きなクマが転がってきた。
「……」
「……」
リーサと4匹が見つめ合う。
しばらく沈黙が続いた。
するとウサギが言った。
「助けて!」
リーサは固まった。
「……今、喋った?」
「喋ったよ!」
ウサギが答える。
「私たち、困ってるの!」
犬が息を切らしながら言った。
「森の奥に罠が仕掛けられていて、この子が逃げてきたんです」
猫が冷静に続ける。
「私は巻き込まれただけ」
「俺もだ!」
クマが起き上がる。
「俺は蜂蜜を探してただけなのに!」
「それは関係ないでしょう」
リーサが呆れる。
「いや、大事なことだ!」
クマは真剣だった。
リーサは4匹を店の中へ入れた。
「まず、怪我を見せて」
犬の足には小さな傷。
ウサギの耳にも擦り傷。
猫は無傷。
クマだけは――。
「あなた、どこも怪我してないわね」
「心が傷ついた」
「それは治療できないわ」
「ひどい!」
リーサは笑った。
4匹に薬を塗り、温かいスープを出した。
すると――。
クマが鍋を抱えた。
「うまい!」
「ちょっと!」
「おかわり!」
「まだ一杯目でしょう!」
ウサギが笑う。
「このクマ、食べることしか考えてないよ」
「失礼だな。俺は蜂蜜のことも考えてる」
「もっと失礼!」
店の中に笑い声が響いた。
*
翌朝。
リーサが目を覚ますと、4匹はまだ店にいた。
「あなたたち、帰らないの?」
ウサギが答えた。
「帰る場所がないの」
犬も静かに頷いた。
「私は森で暮らしていました。でも罠が増えて、安心して暮らせる場所がなくなってしまったんです」
猫は窓の外を見ていた。
「私は一人でいるのが好きだけど……昨日の夜は、少し怖かった」
クマはスープを飲んでいた。
「俺はここに住みたい」
「どうして?」
「ご飯がうまい」
「……」
リーサはため息をついた。
「それだけ?」
「それだけじゃない」
クマは真面目な顔になった。
「ここにいると、なんだか安心する」
リーサは黙った。
4匹を見る。
それぞれ事情は違う。
でも、みんなこの場所を必要としている。
リーサは笑った。
「じゃあ……しばらくここにいてもいいわ」
「本当!?」
ウサギが跳ねる。
「ありがとうございます」
犬が頭を下げる。
猫は何も言わなかったが、尻尾をゆっくり揺らした。
クマは――。
「やったー!」
両手を上げた。
*
それから数日。
不思議なことが起こり始めた。
ある日、森で迷った女性がカフェへやってきた。
「すみません……」
リーサが話を聞く。
その間、ウサギは女性の荷物を整理する。
犬は森までの帰り道を確認する。
猫は女性が落とした鍵を見つける。
そしてクマは――。
「お腹空いてない?」
「相談者にケーキを勧めないで」
「でも元気になるぞ」
「……まあ、それはそうね」
女性は笑った。
そして帰る頃には、来たときよりずっと明るい顔になっていた。
リーサは4匹を見た。
「あなたたち……」
ウサギが首をかしげる。
「なに?」
「このカフェの仕事、手伝ってくれる?」
4匹が顔を見合わせる。
犬が胸を張った。
「もちろんです」
猫が頷く。
「暇つぶしにはなる」
ウサギは嬉しそうに跳ねた。
「私、相談者の話を聞くの好き!」
クマは手を上げた。
「俺はケーキ担当!」
「それは仕事じゃないわ」
「じゃあ、薪担当!」
「それならお願い」
クマが笑った。
「任せろ!」
こうして――。
リーサと4匹の暮らしが始まった。
それはまだ、Cafe Lykkeが「不思議なカフェ」と呼ばれる前のこと。
まだ、このカフェには一つだけ足りないものがあった。
――誰でも来られる店ではなく、
本当に助けを必要としている人だけが、たどり着ける場所。
その秘密を、リーサはまだ知らなかった。
そして、その秘密が明らかになるのは――。
最後の一話。
第20話だった。




