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『海を望むCafe Lykke(カフェ・リッケ)』 魔法使いの店主と、ちょっと頼りない名探偵たち。  作者: 雨宮ぐみ


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第20話 幸せのカフェ

第20話 幸せのカフェ


 その日は、朝から海が静かだった。


 Cafe Lykkeの窓から見える水平線は、どこまでも青い。


「今日は、お客さん来るかな?」


 ウサギが窓の外を眺めている。


「来るんじゃない?」


 猫は暖炉の前で丸くなっていた。


「根拠は?」


「なんとなく」


「なんとなくかぁ……」


 犬はテーブルを拭きながら笑った。


 クマは厨房でケーキを作っている。


「できたぞ!」


「……」


 4匹が厨房を見る。


 テーブルの上には、大きなケーキ。


「クマ」


 リーサが言った。


「何?」


「今日は何の日?」


「最終回!」


「違うわ」


 クマが首をかしげる。


「じゃあ何の日?」


「Cafe Lykkeができて、ちょうど一年なの」


「ああ!」


 ウサギが嬉しそうに跳ねた。


「一年記念日だ!」


 リーサは笑った。


「そうね」


 けれど、そのとき――。


 カラン。


 店の入口に掛けた小さな鐘が鳴った。


 全員が振り返る。


 扉の前に、一人の女性が立っていた。


「あの……」


 女性は戸惑ったように周囲を見回している。


「ここ……カフェですか?」


「ええ」


 リーサが微笑む。


「Cafe Lykkeへようこそ」


 女性はゆっくり店の中へ入った。


「私……どうしてここに来たのか、自分でも分からないんです」


 リーサは何も聞かず、椅子を引いた。


「どうぞ。まずは座ってください」


 女性が腰を下ろす。


「私、ずっと悩んでいて……」


 リーサは静かに頷いた。


「話してください」


 その光景を見ながら、猫が小さく笑った。


「変わらないね」


「何が?」


 ウサギが聞く。


「最初からずっと」


 猫はリーサを見る。


「ここに来た人の話を、まず聞く」


 犬も頷いた。


「それが、このカフェの始まりでしたから」


 リーサは女性の話を聞き続けていた。


 しばらくすると、女性の目に涙が浮かんだ。


「……私、どうすればいいのか分からなくて」


 リーサはタロットを取り出した。


「では、一緒に考えましょう」


 カードを並べる。


 ルーンも置く。


 4匹も、それぞれの方法で手伝う。


 ウサギは女性の話を整理する。


 犬は必要な情報を探す。


 猫は女性が言葉にできなかった気持ちに気づく。


 そしてクマは――。


「ケーキ食べる?」


「今は必要ないと思う」


「でも甘いものは心にいいぞ」


「……少しだけお願いします」


「ほら!」


 女性が初めて笑った。


 リーサも笑った。


 やがて女性は、自分自身で答えを見つけた。


「……私、やってみます」


 店を出るとき、女性の顔には小さな笑顔が戻っていた。


 扉が閉まる。


 リーサは窓から女性を見送った。


 そして4匹に言った。


「これで、やっと完成したわね」


「何が?」


 クマが尋ねる。


「Cafe Lykkeよ」


   *


 リーサは、海を眺めた。


「このカフェを作った理由は、困っている人を魔法で救うためじゃないの」


 4匹が静かに聞いている。


「人は、自分の答えを自分で見つけることができる」


「でも……」


 ウサギが言う。


「一人では見つけられないこともある」


「そう」


 リーサは頷いた。


「だから、話を聞く人が必要なの」


 タロットを手に取る。


「占いは、答えを決めるものじゃない」


 ルーンを並べる。


「魔法も、人生を変えてあげるものじゃない」


 そして4匹を見る。


「ただ、もう一度前を向くための、小さなきっかけを渡すの」


 猫が静かに言った。


「だから、このカフェには誰でも来られないんだね」


 リーサは頷いた。


「ええ」


「どうして?」


「本当に助けを必要としている人の前にしか、この場所への道が現れないから」


 犬が窓の外を見る。


「だから森の道が……」


「ええ」


 リーサは微笑んだ。


「心の中で『誰かに話を聞いてほしい』と思ったとき、その人の前に道が現れるの」


 ウサギが嬉しそうに言った。


「じゃあ、Cafe Lykkeは迷子になった人を探すカフェじゃなくて――」


「心が迷子になった人を迎えるカフェ」


 猫が続けた。


「そういうこと?」


「その通りよ」


 クマが腕を組んだ。


「なるほど!」


 しばらく考える。


「じゃあ俺たちは?」


「あなたたちは……」


 リーサは4匹を見た。


「私一人ではできないことをしてくれる、大切な仲間よ」


 4匹が笑った。


 クマだけは涙ぐんでいる。


「リーサ……」


「何?」


「俺、感動した」


「そう」


「だからケーキもう一個食べていい?」


「台無しね」


 全員が笑った。


   *


 夕方。


 海に夕日が沈み始めた。


 リーサは店の看板を見上げた。


 Cafe Lykke


 その名前には、ひとつの願いが込められている。


 幸せ。


 けれど、それは何も悩みがないことではない。


 悲しみもある。


 迷うこともある。


 泣くこともある。


 それでも、自分の足で一歩を踏み出せたなら――。


 そこには、きっと小さな幸せがある。


 リーサは店の扉を開けた。


「さあ、明日もお客さんを迎えましょう」


「はい!」


「うん!」


「任せて」


「ケーキは俺に任せろ!」


「そこだけは任せたくないわ」


 笑い声がカフェに響く。


 その夜。


 森の中に一本の小道が現れた。


 月明かりに照らされた道。


 その先には、小さなカフェ。


 海を望む丘の上で、Cafe Lykkeの灯りが優しく輝いている。


 誰かが悩んでいるとき。


 誰かが人生に迷ったとき。


 誰かが、もう一度前を向きたいと思ったとき。


 その人の前にだけ、この道は現れる。


 そして――。


 カラン。


 また、店の鐘が鳴った。


 リーサが振り返る。


 4匹も顔を上げる。


「ようこそ」


 リーサは微笑んだ。


「Cafe Lykkeへ」


 海の向こうから、朝の光が差し込んだ。


 魔法使いの店主と、ちょっと頼りない名探偵たち。


 彼らのカフェは、今日も誰かの心に小さな灯りをともしている。


 ――完

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