第13話 サンタクロースに会いたい
第13話 サンタクロースに会いたい
クリスマスまで、あと一週間。
Cafe Lykkeの扉が開いた。
入ってきたのは、一人の若い母親だった。
その後ろには、よく似た二人の女の子。
年は六歳くらい。
双子の姉妹だった。
「いらっしゃい」
リーサが声をかけると、母親は少し緊張した様子で頭を下げた。
「あの……本当に、ここで相談すれば魔法を使ってもらえるんでしょうか?」
「ええ」
リーサは微笑んだ。
「どんな願いかしら?」
母親は、隣にいる双子を見た。
二人は手をつないでいる。
「この子たちが……サンタクロースに会いたいって、ずっと願っているんです」
「サンタクロースに?」
クマが厨房から顔を出した。
「俺も会いたい!」
猫が振り返る。
「あなたは大人でしょう」
「心は子どもだ」
「お腹は大人だけどね」
「どういう意味だ!」
双子の姉が、くすっと笑った。
母親も少し笑った。
けれど、その表情はすぐに曇った。
「この子たちは毎年、サンタさんに会いたいって言うんです。でも……」
母親は言葉を止めた。
「今年は、クリスマスプレゼントを用意してあげられなくて」
リーサは静かに母親を見る。
「生活が……少し苦しくて」
母親は膝の上で手を握った。
「プレゼントどころか、クリスマスパーティーもできそうにありません」
双子は母親の顔を見る。
「ママ、大丈夫だよ」
「サンタさんに会えたら、それだけでいいの」
姉妹は笑った。
その言葉が、母親には余計につらかった。
「だから……せめて一度だけでも、この子たちをサンタクロースに会わせてあげたいんです」
リーサは微笑んだ。
「分かったわ」
「本当ですか?」
「ええ。二人をサンタクロースに会わせてあげましょう」
双子の目が輝いた。
「本当に?」
「サンタさんに会えるの?」
「ええ」
リーサは立ち上がった。
「ただし――」
双子が息をのむ。
「今夜は、特別なクリスマスパーティーにしましょう」
「クリスマスパーティー?」
「一週間早いけれどね」
◇
Cafe Lykkeの店内が、魔法の光に包まれた。
小さなクリスマスツリーが現れる。
壁には星の飾り。
テーブルにはキャンドル。
そして、大きなケーキ。
「わあ……!」
双子は大喜び。
「きれい!」
「ケーキもある!」
クマがケーキを見て目を輝かせる。
「俺の分は?」
猫が冷たく言った。
「あなたはさっき夕食を食べたでしょう」
「クリスマスケーキは別腹だ」
「あなたの場合、別腹が三つくらいあるでしょう」
「失礼な!」
ウサギが笑いながら皿を並べる。
犬は一生懸命、クリスマスツリーの飾りつけをしている。
「これで完成です!」
ところが――
ツリーが少し傾いた。
「……」
犬が押さえる。
「……大丈夫です」
クマが見る。
「倒れそうだぞ」
「大丈夫です!」
ツリーがぐらり。
「大丈夫じゃない!」
全員で慌てて支える。
双子は大笑いした。
◇
パーティーが始まった。
ケーキを食べて、歌を歌って、みんなで笑う。
そしてリーサが双子の前に立った。
「二人とも、目を閉じて」
「どうして?」
「サンタさんを呼ぶためよ」
姉妹はぎゅっと目を閉じた。
リーサが両手を広げる。
「冬の夜に眠る星たちよ。
雪の道を走る風よ。
子どもたちの願いを知る者よ。
今、この場所へ――」
キラキラと光が舞った。
鈴の音が聞こえる。
リン……リン……。
双子が目を開ける。
すると――
目の前に、大きな赤い服を着た男性が立っていた。
白いひげ。
赤い帽子。
大きな袋。
「……サンタさん?」
「ホッホッホ!」
サンタクロースが笑った。
「メリークリスマス!」
「サンタさーん!」
双子が駆け寄る。
「本物?」
「本物じゃよ」
「どうしてここにいるの?」
「君たちの願いが聞こえたからじゃ」
姉妹は顔を見合わせた。
「ずっと会いたかったの!」
「サンタさんに聞きたいことがあるの!」
「なんじゃ?」
「トナカイは本当に空を飛ぶの?」
「もちろんじゃ」
「お家はどこ?」
「それは秘密じゃ」
「プレゼントはどうやって作るの?」
「それも秘密じゃ」
質問が止まらない。
サンタクロースは楽しそうに笑った。
母親は少し離れたところから、その光景を見ていた。
目には涙が浮かんでいる。
リーサがそっと隣に立つ。
「よかったですね」
「はい……」
母親は涙をぬぐった。
「この子たち、こんなに嬉しそうに……」
◇
しばらくして。
サンタクロースが双子の前にしゃがんだ。
「二人とも」
「はい!」
「クリスマスまで、あと一週間じゃ」
「うん!」
「それまで、よい子にしているんじゃぞ」
双子が元気よく頷く。
「はーい!」
サンタクロースは優しく笑った。
「そして――」
二人を見つめる。
「クリスマスの夜には、必ず君たちの家にも行くからね」
「えっ?」
「本当に?」
「もちろんじゃ」
「約束?」
「約束じゃ」
サンタクロースが小指を差し出す。
双子も小指を絡めた。
「約束!」
その瞬間――
キラキラと光が広がった。
サンタクロースの姿が少しずつ薄れていく。
「待って!」
「サンタさん!」
「クリスマスに、また会おう!」
「うん!」
光が消える。
そこには、いつものCafe Lykkeが戻っていた。
クリスマスツリーも、ケーキも、飾りも消えている。
母親は驚いて辺りを見回した。
「……夢?」
双子が顔を見合わせる。
「夢じゃないよね?」
「うん!」
二人は嬉しそうに笑った。
◇
そして――
一週間後。
クリスマスの朝。
双子の姉妹は、同じベッドで眠っていた。
窓の外はまだ薄暗い。
やがて姉が目を覚ます。
「……ん?」
枕元を見る。
そして――
目を丸くした。
「ねえ!」
妹も起きる。
「どうしたの?」
「これ!」
枕元には、小さなメッセージカード。
そこには――
Merry Christmas
よい子たちよ
と書かれていた。
そして、その隣には――
二人のお揃いの素敵な靴。
「わあ……!」
「サンタさんだ!」
二人は靴を抱きしめる。
「本当に来てくれた!」
「約束してくれたもんね!」
二人の声を聞いて、母親が部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
双子が一斉に振り返る。
「ママ!」
「サンタさんが来たよ!」
母親は枕元を見る。
そして、言葉を失った。
そこには二人分の靴と、メッセージカード。
母親の目から涙がこぼれる。
「……よかったね」
「うん!」
「サンタさん、約束守ってくれた!」
双子は新しい靴を履いて、嬉しそうに部屋の中を歩き回った。
その頃――
遠い森の中。
Cafe Lykkeでは。
クマが大きな靴を履いていた。
「どうだ?」
猫が見る。
「何してるの?」
「俺もサンタさんからプレゼントをもらった」
「それ、あなたが勝手に買った靴でしょう」
「……バレたか」
ウサギが笑う。
「サイズ、合ってないよ」
クマが歩く。
一歩。
二歩。
三歩。
「……歩きにくい」
犬が呆れる。
「そりゃ、大きすぎますから」
クマは胸を張った。
「来年のために、今から慣らしてるんだ!」
「来年も履く気なの?」
「もちろん!」
リーサは窓の外を眺めた。
雪が静かに降り始めている。
そして、どこか遠くから――
リン……リン……。
小さな鈴の音が聞こえた。
リーサは微笑んだ。
「メリークリスマス」
雪の森の向こうで、赤い影が一瞬だけ揺れた。
そして――
鈴の音だけを残して、消えていった。




