第121話 「狼姫と、先輩の幸せ」
十七夜月先輩は凄い。
飄々としているように見えて物事をしっかり捉えていると言うか、捉えすぎていると言うか、既に完成された大人のような存在だった。
だけど話してみればかなりの愉快犯で、その辺りのギャップと言うか良い意味での温度差は咲蓮と近しいものがあるだろう。
そんな十七夜月先輩の幸せって何だろうって思った。
何故なら十七夜月先輩は、朝日ヶ丘先輩や咲蓮……それに俺の幸せについては語るけれど、自分の事はあまり喋らなかったからである。
「……ボクの、幸せかい?」
隣にあるサマーベッドの上から、十七夜月先輩が俺を覗きこむ。
ジッと俺を見つめるその黒い瞳には、いつものような力強さが無いように感じた。
何かマズい事を聞いてしまったのだろうか……?
「ボクの幸せは、未来と楽しく過ごす事だよ」
「……え?」
かと思いきや。
十七夜月先輩は口元を緩め、微笑みながら即答する。
予想していなかった訳ではないが、その答えに拍子抜けしてしまったのも事実だ。
「それと、柳クン。キミとも、ね」
「……は、はい!?」
「キミだけじゃない。咲蓮クン……それと、誠。ボクはね、欲張りなんだよ。ここにいる皆で、ボクの好きな皆と、一緒に楽しく過ごせれば良いと、そう思っている」
「……十七夜月、先輩?」
もう一度、十七夜月先輩が微笑んだ。
その姿は風紀委員長でも一流企業社長の愛娘でもない、一人の女の子としての笑顔に見えた。
外で遊ぶ友人がまともにいなかった俺が言うのもアレだが。
――その幸せは、あまりにも普通の事だったんだ。
「欲張りですかね、それ……?」
「欲張りさ。世界一、欲張りと言って良い」
だから聞く。
それにまた、十七夜月先輩が即答した。
「……散々弄ばれた俺的には、もうお腹いっぱいなんですが」
「あっはっはっはっはっ! キミも本当に、言うようになったねぇ!」
だけどそれはそれ、これはこれ。
美女四人からのアレやコレは、俺の体力と精神をあり得ないぐらい削っているのである。
仮に俺が四人に増えたとしても、多分足りない。
そんな俺の苦言に、十七夜月先輩は目の端に涙が溜まるぐらい、大きく笑った。
「……柳クン。そんなキミだからこそ、知っておいてほしい事があるんだ」
「……何ですか?」
目の端の涙を指で拭いながら、十七夜月先輩が俺に言う。
聞き始めたのは俺だが、こうして改まって言われると身構えてしまうんだ。
そんな俺を見て。
十七夜月先輩はさっきまでと変わらない、優しい笑顔で微笑んで。
「世の中にはね、叶わない方が良い幸せも……あるんだよ」
遠くを見つめながら。
寂しそうに、そう呟いたんだ。




