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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第六章 狼姫のお泊りラブリゾート 後編

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第120話 「狼姫と、波打ち際」

「さあ咲蓮ちゃんどんどんかけてっ! 海の水が無くなるぐらい、どんどんかけていいよっ!!」

「ぱしゃぱしゃ」


 青い空、広い海、白い砂浜。

 波打ち際で水をかけあう美少女が二人、夏の太陽に照らされている。

 

 一人は咲蓮である。

 中腰になって両手ですくった水をぱしゃぱしゃとかけていた。


 もう一人は朝日ヶ丘先輩である。

 水のかけあいなのに、何故か両手を広げて立ち尽くしていた。


「……平和だ」

「おやおや? 未来風に言うのなら、賢者タイムかな?」

「十七夜月先輩!?」


 不意打ちが隣からやってきて。

 せっかくの心の安寧が一瞬で砕かれた。


 巨大なパラソルの下。

 優雅にサマーベッドに寝転ぶ姿も様になり過ぎている十七夜月先輩は、悪戯な笑みを俺に浮かべるのだった。


「まあまあ柳クン。キミも男の子だし、好きな異性に囁かれ続けたらあんな声が出てしまっても誰も責めないよ。まあ、咲蓮クンには責められていたがね」

「ノリノリ過ぎませんか!?」

「海だからね」


 いつもより饒舌な十七夜月先輩である。

 ようやく朝日ヶ丘先輩に慣れ始めてスルーする事を覚えてきたのに、ここにきて違う攻め手で絡んでくる十七夜月先輩の可能性を考慮していなかった。

 

 せっかく一息つけると思ったが、満足気な十七夜月先輩の顔を見てしまったら相手をしない訳にはいかないのだ。


「……十七夜月先輩は、向こう。行かないんですか?」

「まだまだ時間はあるからね。こうして未来の楽しむ姿を見ているだけでも楽しいんだよ。キミは、違うのかい?」

「……違いませんね」

「だろう?」


 確かに。

 俺も咲蓮が楽しそうに水遊びをしている姿を見るのは嬉しかった。

 最近は俺の前なら緩んできたけれど、学校じゃ絶対にあんな姿見せないもんなぁ。


 ……今のクラスメイト達なら、普通に受け入れてくれそうだけど。


「好きな人には幸せになってもらいたい。ボクはね、そう思うんだ」

「……どうしたんですか、急に?」


 十七夜月先輩が遠くを見つめる。

 見ている方向は波打ち際で遊んでいる二人なのに、何故か見ている場所はそこじゃない気がしたんだ。


「……柳クンもいい加減素直になって、咲蓮クンと風紀を乱さないかなってね」

「風紀委員長の言葉ですがそれが!?」


 だけどその思考は一気に吹き飛ばされる。

 十七夜月先輩が笑顔で、とんでもない事を言ってきたからだ。


「あっはっはっ! キミが働き者なせいで、結構暇なんだよ。ボクも未来も三年生だからね、卒業前にもう一つぐらい刺激が欲しいのさ」

「その刺激が俺と咲蓮で良いんですか……」

「言っただろう? 好きな人には幸せになってもらいたいって」

「…………」


 勝てない。

 暖簾に腕押し、柳に風。

 柳は俺の苗字だが、そんな事は差し置いても十七夜月先輩に勝てる気がしない。


 こう言うと良くないかもしれないが、ずっと手のひらの上って感じだ。


「まあ、少なくても……俺はここに連れてきてもらえて、初めての海を楽しんでますけど……」

「おや、ボクには素直になれるじゃないか?」

「この流れで素直に言えない方がおかしいですよね……」

「あっはっはっ! それもそうだね」


 砂浜を、風が通り抜ける。

 十七夜月先輩の長い黒髪が風に靡いていた。


 凄いお金持ちという部分は抜きにしても、十七夜月先輩が俺達をこの島に招待してくれたのは事実である。

 それこそ、先輩が言う通り俺達の幸せを願ってくれての事だろう。


 船の中で話していた時からずっとそうだ。

 十七夜月先輩も斑鳩宮さんも、大切な人の幸せを望んでいる。


「……じゃあ、俺からも質問良いですか?」

「おや? 改まって、ボクから何を聞き出したいんだい?」


 だからこそ、少しだけ気になったんだ。


「十七夜月先輩が俺達の幸せを願ってくれている事は凄く分かりましたけど……」

「おやおや、どうしたんだい? 急に嬉しい事を言ってくれるじゃないか?」


 何を考えているか分からないが人として尊敬出来過ぎる、俺の憧れな先輩の――。


「十七夜月先輩の、幸せって何ですか?」


 ――十七夜月先輩自身の幸せって、何だろうって。

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