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最弱スキル【レアドロップ】で【ステータス1固定】だけどたまたま倒したスライムが【召喚の杖】をドロップしたので人生ヌルゲー  作者: 八゜幡寺


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10/17

10:防具完成!

 目の前には三体のゴブリン。

 弱そうな俺を嘲笑っているかのように、ゲッゲッゲと気色悪い笑顔を見せた。


「よし……! いくぞ、ライム!」


 ライムの名を呼ぶが、これは自分にかけた気合の言葉だ。返事を待たずに飛び出して、背後から呑気な声がすぐに追いついた。


「はーい」


 しかし追いついたのは声だけだ。ライム本人はその場で待機。

 俺だけ単騎での特攻だ。


「ゲヒヒッ!」


 向かってくる俺に対して、またもゴブリン達は嘲笑う。仲間内でじゃれ合って、俺をバカにしているようだった。

 ……よっぽど貧弱なステータスが顔に現れているのだろうな。ちょっとショックだ。


 命をかけた戦いで、相手が勝手に油断してくれるのはありがたい事なんだが、訓練という観点じゃぜんぜんだ。

 せっかく今の俺の力量に丁度良さそうな特訓相手を見つけたと思ったんだが……仕方ない。

 心置きなく、800ロキスの魔石になって貰うとしよう。


 剣を振り上げる。ゴブリンはまだ笑っている。俺のへなちょこな攻撃なんて受け止めてから、お気楽に反撃に出ようなんて考えが透けて見える。


 だからこんな小手先に引っかかる──!


 奴らの視線は俺が振り上げた剣に集中している。

 おもむろに、地面の土を蹴り上げる!


「グギキャ!?」


 土くれの礫が狙い通りにゴブリン達の顔面を強襲。反射的に手で顔を覆う無防備な胴体を掻っ捌く! まずは一体!


 続いてもう一体!

 だけどこいつはもう、目に土が入って両目を閉じてしまっていた。必死に目をこするそいつは、俺の存在なんて忘れてしまっているかのようなマヌケさだった。

 猫背気味の背中から、首を一刀両断。これで二体目。光となってに消え去っていく。


 最後の一体は少しは頭が回るらしく、俺から距離を取って臨戦態勢の構えを見せる。

 だけどもう遅いって。三体とも最初からそんな感じだったならいい勝負ができたかもしれないけどな。


「よくも仲間を! 俺様が本気を出して、貴様のような雑魚なんざぶち殺してやる!」


 なんてことを言ってるのかもしれない。「グギャグギャ!」と絶えずうるさく吠えている。

 吠えて吠えて、士気を昂らせて、一足飛びで俺に飛び掛かる。頭に血が昇った単調な攻撃ほど合わせやすいものはないな。


 ゴブリンの振り下ろす双腕に合わせて剣を斬り上げる。ゴブリンの皮膚は固く、本来なら膂力が十分になければ、それか『剣術』スキルを駆使しなければ剣は弾かれてしまう。


 だけど俺には、この『ラピッドソード』がある。

 めちゃくちゃ切れ味が鋭いこの刃があれば、容易く膂力も剣術も必要ない。


「ッギャアアアア!」


 ゴブリンの両腕がバターのように滑らかに切断されて宙を舞う。続けざまに、振り上げた剣を、重力に従い急転直下!

 ゴブリンを縦に両断し、光の粒子が霧散していくのだった。


「ふう、どうだった? 結構、いい感じに動けてただろ?」


 振り向いてライムに尋ねる。

 すると彼女はニコっと笑って、大きく口を開けて見せた。


「ふぁ~あ。あくびが出ちゃうね。センスなーし! マスターはやっぱり戦闘に向いてないよ。僕が戦うんだから安心して任せてくれればいいのに」


「くぅ、辛辣!」


 ライムのご指摘は手厳しい。

 それでもやっぱり、これからの戦いは俺も積極的に参加していきたいと思っているんだ。ライムはとてつもなく強いから、確かに任せておけば本当に安心できる。『レアドロップ』だって発動するし、何も困らないのは事実だ。


 それでも俺が戦いたいのは、単なるわがまま。俺の意地だ。

 ライムがいくら俺の手足になってくれても、俺は、俺自身の手で『レアドロップ』を掴み取りたい。

 そしてもっと強い魔物と戦って、『レアドロップ』の真価がどこまで発揮されるのかを見届けたいんだ。


 その為には、魔物が蔓延る危険地帯に赴くことになる。

 ライムの手に負えない魔物が現れるかもしれない。でも俺が戦えるなら、二人で協力して撃破できるかもしれない。

 そうじゃなくても一度に大量の魔物に襲われたら、ライムが一度に相手にできる数も限られている。ライムが討ち漏らした魔物が俺に襲い来る場合、やっぱり俺も戦えた方が生存率は高まるのだ。


「ざーこざーこ! よわよわマスター!」


 だからこのようにライムにいじられてもめげないぞ。


「ふう……それじゃあそろそろ街に戻ろう。鍛冶屋に俺の防具を取りに行くぞ」


「はーい」


 今日は鍛冶屋のおじさんとの約束の日だ。待ち遠しかった三週間。いよいよお目にかかれる。楽しみだ。

 ゴブリンの魔石を回収して、急いで街へと戻った。




「おう……来やがったな。待ってたぜ!」


 鍛冶屋の重厚なドアを開くと、俺の顔を見たおじさんは腕を組みなおして口角を上げた。その表情に頼んでいたものの完成度を期待して、俺も思わず顔がにやける。


「機嫌よさそうだね。何かいいことでもあった?」


「けっ! 知らねえな! ただ……これだけは言っておく。――俺の人生で、これ以上の最高傑作はもう作れねえだろうよ! がっはっはっはァ!」


「へえ……! 期待しちゃうなあ」


「おう! こっちだ。ついてきな!」


 カウンターの奥の扉に案内される。素直についていくと、そこには、おじさんの他に二人の人間が待ち構えていた。

 一人は白髪のおばさん。紫の帽子をかぶり、優雅な印象の女性だ。

 もう一人は若い男性。どこかおじさんに似ている。息子さんかな?


「おう、来たんだな、親父」


 若い男がおじさんを親父と呼ぶのでやはり息子のようだ。筋骨隆々だけど、おじさんと比べたらひとまわり小さい。


「待ってたわよ。聞いてた通りの、かわいらしい坊やじゃない」


「どうも」


 紫のおばさんも手をひらひらと声をかけるので、頭を下げて応えた。


「悪りぃな。どうしてもお前の顔を拝みたいって言うもんだからよ。ま、お前の無理難題に協力してくれたんだ。悪く思わないでくれ。それでこいつが……わしの力作ッ! どうだ!」


 おじさんはごそごそと木の箱を取り出して、俺の前にドンと置いた。蓋を開けて、その正体があらわになる。


「これは……マント……?」


 初見で布地であることにまず驚く。そっと手に取り、広げてみて、その存在にますます驚いた。

 マントだ。表面が血のように深い紅色で、裏地は対照的に、春の芽吹きを思わせるさわやかな翠色。

 ぶ厚そうな見た目ではあるが、その重量は俺が軽々と持てるほど気にならない。


「え? マント?」


「そうだ」


「あれ、ここって、鍛冶屋だよね?」


「そうだが」


「……マント?」


「……俺の最高傑作だ」


「……え?」


「なんだてめぇ! 文句あるってェのかあああ!!!」


 あるのは文句じゃなく疑問だ。

 激怒したおじさんが俺に掴みかかろうとするところで、おばさんに後頭部をコツンと叩かれて諌められる。


「ほんとにあなたは、相変わらずの石頭ね。ちゃんと説明しなきゃわからないに決まってるでしょう」


「けっ!」


 正論を返されてつまらなそうにそっぽを向くおじさんに代わり、おばさんが話を進める。


「ごめんなさいね。説明すると、そのマントは坊やが持ってきた『ドラゴンブラッド』をとても細く繊維状にして、私の『裁縫』スキルで編み上げたものなのよ」


 なるほど。そういうことだったのか。

 だけど、ならば仕上げたのはこの人ということになる。「俺の最高傑作」と言うのは語弊がある気もするが、おばさんはきちんとそのことも話してくれた。


「重要だったのは、鉱石をここまで細く靭やかにする技術ね。こんな繊細に『鍛冶』スキルを扱える職人は王都にもなかなかいないでしょう。ね。あなたの唯一の取り柄よ」


「……けっ」


 おいおいおじさん、褒められて、耳まで真っ赤になってるぞ。若干皮肉っぽくもあったが気にしてない様子だ。

 続いて口を開くのは、おじさんの息子。ムキムキと話を出す。


「あんた、魔物の素材とかも親父に預けてったろ? 俺っちの『錬金術』スキルで判明したんだが、とりあえず牙は猛毒だったぞ」


「……げ、マジか」


「一歩間違えてたらあんたも親父もころっと死んでたぜ! ははは! 運が良かったな!」


 猛毒の牙だったのか。あぶなかった。うっかり毒にやられなくてよかった。

 ……あれを飲み込んでたライムは大丈夫なのか? 今生きてるということは平気だったんだろうが、今後は何でもかんでもライムを頼るのはよそう。

 うっかり殺しかねない。


「まあそれはいいとして、その毒は何でもドロドロにしちまうんだ。それで、緑色の鱗もあったろ。あれを溶かして、その溶液で裏地を染めてみた。さわやかな翠色だろう? もちろん、見た目だけではなく性能も飛び抜けだぜ!」


 魔物の素材というのは強い生命力が宿っているらしく、なんとダメージを受けても自動で修復してくれるらしい。ほんとかよ。

 鉱石で出来ているので頑丈でちょっとやそっとじゃ傷一つつかない上に、自動修復までついている。

 さらに『ドラゴンブラッド』は魔力を吸収・蓄積することができる鉱石なんだとか。魔術による攻撃に強い耐性まであるというのだ。


「凄いな……理想的過ぎる! 本当に凄い性能だ!」


「へへへ。それもこれも、あんたが親父に火を点けてくれたおかげだ。ありがとな」


「この人、これでも王都で有数の鍛治師だったのよ。だけどこんな性格でしょう? 公爵家に楯突いて、追放されちゃったのよ。そこからまあ、落ちぶれちゃって、私も息子も愛想を尽かして出ていったのよ」


 大きなため息と共におばさんは語る。だけど、途端にうふふと笑って、頬に手を当てて嬉しそうな声色に変わったのだった。


「それがこの前、いきなり私の前に現れたと思ったら、見たことないくらい深々と頭を下げて『力を貸してくれ』よ? 目玉が飛び出るかと思ったわ。うふふっ」


「見直したぜ親父! やっぱあんたは、俺っちの尊敬する世界一の鍛冶師だ!」


「私も、今回の一件で、惚れ直させてもらったわ。これからもよろしくね、あなた」


「お前ら……ば、ばか野郎が! な、な、何を言い出すかとおもえば……! 畜生! おいガキ! これで依頼は達成だ! さっさとそれ持って出ていけ!」


「あーらら。親父、泣いてやがるぜ……へへ。ぐすっ」


 なんだか、いろいろあった家族なようだ。いろいろあって、それでも離れられずにみんなこの街で暮らしていたんだな。心の底では繋がっていたんだ。いい家族だ。


 言われた通り、退散でもしようかと思うのだけど、かっこ悪いことに、そうも行かない。

 まだ支払いを済ませてない。

 これじゃ泥棒だ。


「それじゃ、お金を払うよ。いくらになる?」


「あん? バカ言ってんじゃねぇ! このマントに値がつけられるかってんだ! さっさと持ってけ!」


「え? でもそれじゃあ、そっちは大赤字だろ」


「うるせェ! いらねェつってんだ! ありがたく貰って帰ればいいだろうが! ガキが遠慮してんじゃねェ!!!」


 パチコン。

 おばさんが頭を叩いて諌める。


「いいのよ。どうか貰ってちょうだい。それに、別にタダであげるって言ってるわけじゃないのよ。ほら、マントを広げてみて」


 ばさっと広げ、その全貌を目の当たりにする。

 すぐにそれに気がついた。ははあ、なるほど……。

 やってくれたね。


 マントには、デカデカと文字が刺繍されていた。


鍛冶屋ブラックスミスガンティッツ』

服屋ブティックカワセミ』

『街の錬金術士アルケミストゴーディン』


 いいだろう。まんまとあなた達家族の広告塔になってやるよ。

 俺はこのマントと共に――冒険者になる。

 より強い魔物を倒して、『レアドロップ』スキルを極めてやろうじゃないか!

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