ライラの宣言(クリス視点)
アリシアが戻り、仕切り直しとなった。
姉妹は椅子を寄せて、寄り添って座っている。
「お姉様…聞かせていただいたあのお話をお姉様にした方はどなたですか?お姉様に心無い言葉を浴びせて傷つけたのは、いったい誰です?」
直球でライラが聞きにいった。アリシアへあの天使の微笑みを向けている。
「お姉様…?」
アリシアの手を握り、ライラはアリシアの顔を覗きこむ。有無を言わせぬ雰囲気を漂わせ、ライラが再度アリシアに声をかけた。
「…カドミナ様よ……」
思い出したのか、アリシアの瞳が潤み出す。ライラが慌ててアリシアの頬を両手で挟んだ。
「泣かないで、お姉様。わたくしはお姉様が大好きですわ。お姉様が一番大切です。お姉様が優しいことはわたくしが誰より知っておりましてよ。それに、わたくし殿下に興味はありません。仲良くしていただいているのは、お姉様を共に愛でる同志だからですわ。ねぇ殿下?」
「あぁ…」
「『あぁ』じゃありませんわよ。ここは、お姉様に愛を囁く場面ですわよ。弱っているお姉様を慰めて、あわよくば…っていう、おいしいところですわよ」
ライラがアリシアへの愛を語り始めたと思ったら、突然話をふられ、対応しきれずにいたらダメ出しをされた。
「アリシア。わたしの愛しい婚約者殿。わたしが愛を捧げるのは君だけだよ。だから泣かないで」
アリシアの額にキスをした。ライラに乗っかる形になったことは少々癪だが、アリシアの悲しむ顔はこれ以上見たくない。
アリシアの頬が紅く染まる。可愛らしいその姿を見て、涙が引っ込んだようで安心した。
アリシアを見て和んでいると、横からライラの不穏な声が聞こえた。
「カドミナ様ですか…。あの性悪女…」
ライラが忌々しげに、黒い何かを放っている。背筋の悪寒は気のせいではない気がする…。聞き耳を立てると、ライラの呟きが聞こえた。
「悪役令嬢は自分でしょう。下級貴族の令嬢たちに意地悪をしているのは自分のくせに。自分の性格の悪さを棚に上げて、お姉様とクリス様の仲に嫉妬しましたわね。自分は婚約者候補のままですものね。あんな性悪女が第二王子の婚約者になれるはずないでしょう。公爵令嬢だからと、家柄しか取り柄がないくせに。お姉様を傷つけて泣かせるなんて。おかげでお姉様と仲違いするところでしたわ。本当に腹立たしい…あのクソ女」
悪役令嬢…と再び呟いたライラが、何かを思い付いたように顔をあげた。
「悪役令嬢ものがお好きなのでしたら、カドミナ様にはご自分で表舞台に登場していただきましょうか。わたくしが断罪してさしあげますわ。
心無い言葉でお姉様を傷つけて泣かせて…わたくしとお姉様を仲違いさせようとして…。許せません。
わたくしたちを巻き込んで散々引っ掻き回したのです。きっちり落し前はつけていただきませんと…。
お姉様とわたくしが流した涙の分、きっちり仕返しさせていただきますわ」
ライラがそう宣言した。
「もちろん、殿下は協力してくださいますわよね?」
天使の微笑みをたたえて、ライラがわたしと視線を合わせた。
いつもは静かに仕掛け、仕返しをするライラが宣言したことに驚いた。
「カドミナ嬢は公爵令嬢だぞ?大丈夫なのか?」
「もちろん、家に迷惑がかからないようにいたしますわ。家名に傷がつき、お姉様の婚約に影響しては困りますもの。殿下だって困るでしょう?
大丈夫ですわ。幸いにもわたくし、あの方の弟様とは少々のご縁がありますので。あの方にも協力していただきましょう」
ライラが微笑んだ…。
カドミナ嬢の弟…。たしか、名前はジョシュアと言ったか…。少し考えて思い出した。
彼もライラから仕返しの洗礼を受けていた一人だが、当時はライラよくやったと思ったものだ。あの公爵令息は我儘が過ぎた。自分勝手で自己中心的だったのが、ライラによって矯正されたのだったな…。




