イチャイチャするのに忙しいので
お姉様と仲直りをしましたが、お姉様甘やかし期間は継続中です。
あの性悪女から暴言を吐かれてから、わたくしへの「殿下をとられてしまうの?」発言まで、結構な時間があったようです。その間溜め込んでしまっていたのか、お姉様実はかなり弱っておいででした。
天然、ドジなお姉様ですが、鈍いわけではありません。むしろ、ある部分は敏感で空気も読めます。
お姉様に自信を取り戻していただくべく、わたくしお姉様とイチャイチャしております。殿下も、いつも以上に気にかけてくださっています。わたくしが仕掛けたのですけれど…砂糖を吐きたくなるような甘い言葉をお姉様にかけてくださり、一緒に甘やかしてくださっております。
わたくしはお姉様を甘やかすのに忙しいのですが、あの性悪クソ女のための根回しもしなければなりません。
「ジョシュア様。ご相談があるのですが、お時間をくださいませんか?」
カドミナ様こと、性悪クソ女の弟君であるジョシュア様に声をかけました。
胸の前で手を組んで、上目遣いで訴えます。
クリス殿下にはプリラム草の件以降、もう通用しないのですけれど、ジョシュア様にはまだ通用します。
天使のようだと言っていただけることもある笑顔をつくります。隙のない綺麗な微笑みを意識して、上目遣いで見つめると、男性の頬が紅く染まります。
あんなことがありましたのに、わたくしを警戒しないのです、この方…。嫡男ですのに、大丈夫なのかしら…。ころっと騙されてしまいそうで公爵家が心配ですわ。予定通りジョシュア様の頬も紅くなっております。
二人でクリス殿下の待つところに移動しました。わたくしとしてはジョシュア様と二人でもよいのですけれど、外聞が悪いのと、殿下が心配されたのです。わたくしを心配したのか、ジョシュア様を心配されたのかは存じませんが…。
「ジョシュア様。わたくし、ジョシュア様にお願いがあるのです」
わたくしの上目遣いのお願いポーズに、また頬を染めています。大丈夫かしら…。半眼になりそうなのをこらえます。
「ジョシュア様なら、わたくしのお願いを聞いてくださいますわよね?」
「お願いとは?」
勢いで頷いてくださるかと思いましたのに、駄目でした。瞳を潤ませて見つめてみます。
「ジョシュア様…?」
「お願いによります…」
駄目でした。意外に冷静かもしれません…。殿下はわたくしに呆れた目を向けてきます。失礼ですわね。
わたくしはお願いポーズをやめました。
「では、単刀直入に申し上げます。わたくしの邪魔をしないでいただきたいのです」
ジョシュア様を見つめて続けます。
「カドミナ様がお姉様に手を出しました」
その言葉を聞いて、ジョシュア様の肩がビクッと震えました。たぶん、わたくしの言いたいことは察してくださっていると思います。ジョシュア様ご自身も見に覚えがあるのですから。お姉様を害された時にわたくしのとる行動は決まっております。
「カドミナ様にはお姉様を泣かせた落し前をとっていただきます。公爵家の家名には傷がつかないようにしようと思っておりますが、ジョシュア様に協力いただけない場合は、公爵家の家名に傷云々は考えず、思い切りやらせていただきます」
ジョシュア様の顔色が悪い気がいたしますが、続けてことの経緯とこれからの計画と予定を説明しました。
「ジョシュア様?」
にっこり微笑み、呼びかけます。ジョシュア様からお言葉は返ってきません。
「お芝居はお嫌いですか?カドミナ様に、わたくしのお芝居に出ていただこうと思いますの。ご本人の同意はいただきませんけれど。それとも、お芝居ではない方がよろしいですか?わたくしごときが失礼とは存じますが、カドミナ様の今後と公爵家のことを一応気にかけているのですよ…?それとも…ジョシュア様もわたくしのお芝居に出てくださいます?」
首を傾げて、ジョシュア様を見つめます。
「わかりました…。でも、表立っての協力はできません…。あんなのでも我が姉ですので…」
「わたくしの邪魔をしないでいただきたいのですわ。それが、ジョシュア様からのわたくしへの協力です。何が起きても、見て見ぬふり…知らぬ存ぜぬで通してくださいません?」
「……わかりました」
欲を言えばジョシュア様にも役を演じていただきたかったのですが、まあよしとします。邪魔をしないという約束はいただきました。
それなりに満足できる返事をいただいてジョシュア様に笑顔を向けると、また頬を染めていらっしゃいます。「芝居は好きです。よかったら一緒に観劇に行きませんか?」と誘われました。
本当に大丈夫なのかしら…この方。
もちろんお断りいたしました。わたくし、お姉様とイチャイチャするのに忙しいのです。




