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傷ついたアリシア(クリス視点)

ライラのサンドバッグは遠慮したい。正直、考えたくもない…恐ろしい。

ライラが、アリシアは誰かに何かを言われたのではないかと言っていたこともあり、彼女に発言の理由を聞いてみることにした。

アリシアへ遣いを送ると、彼女はすぐに呼び出しに応じた。


「ライラとお話をしてくださったのですよね?」

アリシアが上目遣いで必死に問いかけてくる。そんな場合ではないと思いながらも、可愛らしいと思ってしまう。このまま、抱きしめてしまいたい。

「ライラは…やはり、もうわたくしのことが…」

自身と葛藤している間に、勘違いをしたアリシアの瞳が潤みはじめていた。わたしは、慌てて言葉を紡ぐ。

「いや。ライラは『お姉様が一番大切だ。お姉様に嫌いと言ったことは一度ない。何があっても、お姉様を嫌うなんてあり得ない』と言っていたが…」

アリシアは安心した表情を浮かべながらも、まだ涙をたたえて話の続きを待っている。

「ただ、ショックで悲しいのだと言っていた。罠にはめたり貶めたり、自分がアリシア害する人間だと言われたようだと…。信じてくれていない、自分の思いがアリシアに伝わっていない。ライラはそう言っていた。怒っているのか、拗ねているだけなのかはわからないが、傷ついているようだった…」

アリシアの瞳から涙が溢れた。うつむき、顔を覆ってしまったアリシアの頭を優しく撫でた。そっと上向かせて、ハンカチで涙を拭く。

しばらくすると、アリシアは落ち着いた。

「ライラが殿下と仲良しなので、少しだけ焼きもちを焼いたのです…」


アリシアは語り始めた。

ある人物から、ライラとわたしの仲が良すぎるのではないかと言われたのだという。

そんなことはないと反論したが、相手はさらに言いつのってきた。アリシアの日頃の行いはまるで小説の中の悪役令嬢のようだと。ライラは我慢しているだけではないのか。殿下だって、悪役令嬢のようなアリシアより、可憐なライラに気持ちが向いているのではないか…と。

アリシアが、クリス殿下は自分を大切にしてくれている。ライラと自分は仲良しで、喧嘩一つしたことがない。ライラは自分を慕ってくれているから、罠に嵌めたりなど考えられない。そんなことをする子ではないと話をしたが、相手には鼻で笑われたそうだ。


『ライラ様はアリシア様が恐いだけでは?何をされるかわかりませんもの』と。

『ライラ様がアリシア様にひどい扱いを受けていると訴えれば、あなた終わりでしょう?隠したいのでしょうけれど、みんな知っていますわ。あなたがライラ様にしている仕打ちは。ライラ様はあなたを罠に嵌めるまでもないわ。罪に問われても冤罪ではありませんものね。

仲良し?そんなわけないでしょう?嘘はやめた方がよろしくてよ。

わたくし存じておりますのよ。子供の頃からいろいろ転ばせたり飲み物をかけたりしていたではないですか。先日も階段から突き落としたそうですし。クリストファー殿下だって、なんの躊躇いもなくライラ様を横抱きにしたとか…。とっくに殿下とライラ様は想い合っているのではなくて?アリシア様がお二人の邪魔をしているのではないのですか?障害である悪役令嬢は断罪されますのよ。妹に危害を加えていたことを証明するのは難しくないでしょう?

喧嘩をしたことがないなんて、ライラ様が我慢しているだけだわ。本当は、我慢しているだけで、ライラ様はアリシア様のことが嫌いですわよ』

『そんなに言うなら、本当に自分が嫌われていないか確認してみればよろしいわ。ライラ様に「悪役令嬢は罠にはめられたり、貶められたりする。王子の邪魔な婚約者は冤罪を着せられる。あなたはそんなことしないわよね?」とでも言ってみればよいわ。殿下にも、本当にライラ様のことを何とも思っていないのか聞いてみればよろしいわ。ライラ様の方が、アリシア様よりずっと健気で可愛らしい方ですもの。お二人が惹かれ合うのは当然ですわ』


心無い言葉を浴びせられたアリシアは、気持ちがほんの少し揺れてしまったのだという。

それで、ライラに甘えてしまった。

ライラなら、いつものように「お姉様が大好きだ」「わたくしがお姉様を守ります」と返してくれると思っていたのだと。まさか、ライラを傷つけてしまうとは思っていなかったのだと、アリシアは時々涙を拭きながら語ってくれた。

姉なのに、妹に甘えてしまった。ライラに呆れて見限られても仕方がないと…。


ライラに知られれば、間違いなくぶちギレ仕返し案件だ…。知らずため息が出た。

わたしのため息にアリシアがビクッと肩を震わせた。アリシアの肩を抱き、優しくさする。心無い言葉で傷ついたアリシアが、お姉様大好きライラに癒しを求めたことは理解できる。わたしではなく、ライラに癒しを求めたことは悲しい部分があるが、話を聞いた限り仕方がない気もする。それほどに、ライラのお姉様愛は大きく深い。そこに異論はない。

わたしは、一つアリシアに確認したのだが、自信満々で返された。

「自分で言うのもどうかとは思いますが、ライラはわたくしのことが大好きです。嫌っていないどころか、とても慕ってくれております。毎日あれほど全力で好きだと微笑まれれば、疑う気にもなりません。

もしわたくしが『ライラがわたくしのことを好きかどうかわからない』などと言えば、本当にライラに嫌われてしまいます。『お姉様は、わたくしがお姉様のことを嫌いだと思っていたのですね…』そう泣かれてしまいます。喧嘩どころの話ではなく、わたくしは、一生可愛い妹を失ってしまうでしょう。わたくしにだって、それくらいのことはわかります。わたくしだって、ライラが大切ですのよ。当たり前ではありませんか。可愛らしくて愛しいわたくしの妹なのですから」

クリス殿下の本名はクリストファーです。愛称で呼ぶことを許されている人はクリス様、クリス殿下と呼んでいます。

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