やさぐれライラ(クリス視点)
アリシアから至急で相談があると連絡がきた。今までこんなことはなく、初めての出来事に急いで返事を出す。
やって来たアリシアは、わたしが見てもわかるほどに落ち込み、涙をにじませていた。
「…ライラが……ライラが口をきいてくれないのです。ライラに嫌われてしまいました…」
アリシアの頬に涙が伝う。
彼女の涙を拭き、ハンカチを手渡す。ハンカチを握りしめながら、彼女が話し始めた。
彼女の話を聞き、事情はわかったのだが…。
これ、完全にアリシアが悪いやつじゃないか…。
アリシアの話を聞いた感想はその一言に尽きる。
同情すべきはライラだろう。あれほどお姉様大好きな娘が、その大好きな姉から地雷を踏み抜かれたのだ。
相手がアリシアでなければ、相手に毒薬を盛ったり暗殺を謀ったりという所業に出かねないレベルで地雷を踏まれている…。
アリシアのためにライラと話してみるつもりだが、正直会うのが恐ろしい…。
ライラと話をしてみるからとアリシアをなだめた。
彼女は期待のこもった瞳でわたしを見つめ、「お願いします」と頭を下げ、帰って行った。
断られたらどうしようかと思いながらライラへ連絡すると、思いの外あっさりとライラとの面会がかなった。
「婚約者の妹と二人で会いたいだなんて、何を考えておいでですの。あり得ませんわ。有象無象にネタを提供するような真似はやめてくださいませ」
やって来たライラの開口一番がこれだ。ヤバイと直感で感じるほど、機嫌が悪い。
アリシアから相談を受けたことを説明する。いつもはアリシアの名を出しただけで和らぐ表情が、今は一つも変わらない。無表情のまま、にこりともしない。
「いいですわね、殿下は。お姉様に頼られて。わたくしなんて、罠に嵌めると思われているようでしてよ」
恐い…。例の一件以来恐ろしいと感じるライラの天使の微笑みくらいにはヤバイ雰囲気が滲み出ている。
アリシアが「ライラに嫌われた」と泣いていたと伝えてみると、ライラは一瞬顔を歪めた。
「わたくし、お姉様に『嫌い』なんて言ったことは一度もありませんわ」
何があろうと、わたくしがお姉様を嫌うなんてあり得ませんのに…。そう、ライラが独り言のように呟いた。
「お姉様が泣いた?だから何だとおっしゃっるのです?わたくしだって泣きましたわ」
むしろ、現在進行形で泣きそうですわよ…とライラは続ける。
一瞬呆けてしまうほどに、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「いやいや待て待て待て。君がそれを言うのか?『お姉様を泣かせた』と、わたしに仕返ししてきた君が?」
「あれは殿下が一方的に悪かったからですわよ。わたくしの大切なお姉様を泣かせたのですから、当然ですわ。うるさいですわよ。子供の頃のことをグチグチと」
ライラの瞳が潤み出した。
「お姉様からお話を聞いたなら、おわかりでしょう…。わたくし、お姉様が一番大切なのに…わたくしの気持ちは伝わっていなかったのですよ?信じてくださっていないのですよ?…わたくしがお姉様を害すると思われていたなんて…。ショックで悲しくて…。それに、お姉様より殿下を選ぶなんて絶っっ対あり得ませんのに…。殿下なんてとりませんわよ。いりません。お姉様ひどいですわ…」
ライラ、君もひどいです…。いたたまれない気持ちになってきたのを堪えて、ライラに向き直り立ち上がった。
瞳に涙を溜めたライラに近づき、手を取る。一瞬考えたが、ライラはわたしに泣き顔を見られたくないだろうと思い、抱きしめようとした。誰か忘れたが、泣いている女の子には胸を貸すものだ…と言っていた人がいたことを思い出した。
しかし、ライラに避けられてしまった。ライラに厳しい視線を向けられる。
「なんですの?」
「いや…胸を貸そうと思って…?」
「は?殿下ったら何の冗談です?そんなお約束展開はいりませんわ。誰かに見られて、殿下がわたくしを抱きしめて慰めていたと噂されるのですよ。そんないらない無駄な慰めはいりませんから、なんとかしてくださいませ」
無駄と言われたこともあり、広げた両手を静かにおろした。いたたまれない…。ライラの当たりが本当に厳しい。恐い…。
「ところで、お姉様があのようなことをおっしゃった理由は聞いてくださいましたか?」
唐突にライラが話題を変えてきた。
「理由?いつもの天然発言ではないのか?」
「天然発言にしたって、突然でしたわ。わたくしが対応できないほど唐突でしたのよ…」
うつむいていったライラが、再び顔を上げた。
「で?」
「…で?…と言われても…。理由はわからない…聞いていない」
「チッ。使えねぇ」
ライラがボソッとつぶやいた。聞こえていますよ…ライラさん…。
「何か言ったか?」
聞こえなかったことにして確認してみたのだが…。
「はっ!使えませんわね」
オブラートに包むことなく言い捨てられた。ライラ自身余裕がないようで、機嫌が悪いことを隠そうとも猫を被ろうともしない。
「自分で聞いてみたらよいのではないか?」
「もし…もしですわよ。お姉様に聞いてみて、特に理由がなかったら…誰かの入れ知恵ではなくお姉様から出たお言葉だったとしたら…」
ライラは涙で瞳を潤ませながら続けた。
「立ち直れなかったら、殿下はわたくしのサンドバッグになってくださいますの?」
悲しそうな表情をしながらも、発言はどこまでも不穏なライラである。
なんだ…?サンドバッグって…。そう思いながらも、ライラに言葉を返すことはできなかった。




