セバスこぼれ話 絵本2
アリシアお嬢様から、紙が欲しいと言われました。紙にも種類がありますから、用途をお聞きしたところ、ライラお嬢様のために絵本を作りたいのだとお話いただきました。
わたくしにお手伝いできることはないかおうかがいすると、絵を描き終わってから、話を書いてほしいとお願いされます。
「わたくしでよろしいのですか?」
「セバスがいいの。セバスの字はキレイで読みやすいもの」
アリシア様のお言葉に思わず顔が緩みました。なんと嬉しいことをおっしゃってくださるのでしょう。もちろん、お手伝いさせていただきます。
アリシア様が絵を描き、アリシア様とライラ様で色を塗った絵本のもとをお預かりし、物語を書いていきます。事前にアリシアお嬢様から、あの絵本からの変更点を伝えていただいておりましたので、その通りに内容を変えさせていただきました。
完成した絵本を渡された時のライラ様の表情は、今でも昨日のことのように思い出されます。花がほころぶ、満面の笑みとはあのことでしょう。それを見たアリシア様の表情は、普段はわからないわたくしにさえ輝くように見えました。
ライラ様は、しばらくどこへ行くにも大切そうにあの手作りの絵本を抱えておいででした。
ある日、あの絵本をわたくしに差し出してライラ様がおっしゃいました。
「セバスがあずかってて」
端が折れてしまったのだと、少し悲しそうにされております。
「わたしの宝ものだから、ぐちゃぐちゃにならないように、セバスがあずかってて」
「わたくしでよろしいのですか?」
「セバスならだいじにしまっていてくれるでしょ?お姉さまも、『セバスにお願いすれば安心ね』って」
と笑顔を向けてくださます。
わたくしがどれ程嬉しかったことか…言葉にできません。わたくしを信頼してくださる幼いお二人が、本当に愛しく感じます。任せてくださることに、命をかけようと思いました。それほどに、お二人の信頼が嬉しかったのです。
ある昼下がり、ライラお嬢様から呼ばれました。
「今日はお姉様が一緒に寝てくださるの。わたくしの部屋でお泊まり会をするから、準備をお願いね」
そうおっしゃるライラ様の手には、幼いお嬢様方を怯えさせたあの絵本があります。
図書室であの絵本を見つけたライラ様がアリシア様に「恐いから一緒に寝てほしい」とお願いされたそうです。
本当に仲のよいご姉妹です。アリシア様から「ライラが我が儘を言ってごめんなさいね」とお言葉をいただきましたが、これくらいは我が儘には入りません。
お嬢様方の手作りの絵本は、わたくしが大切にお預かりしております。
今お持ちすべきかとライラ様をうかがいました。
ライラお嬢様を見つめておりましたら、アイコンタクトがありました。もし今あの絵本をお持ちしたら、「今じゃない…」と、ため息をつきながら残念な目でみられる予感がいたしました。
ライラ様とも長いお付き合いです。あとでこっそり、ライラ様にうかがってみようと思います。
やはり、正解でした。
今日はあの不気味な絵本を口実に、ライラ様はアリシア様と一緒に寝るつもりだと。もし、あの手作り絵本を見て「もう恐くないでしょう?」とアリシア様が一緒に寝てくれなくなったら、セバスとは口をきかなかったかもしれない。
ライラ様は微笑みながら、そうおっしゃいました。
「さすがセバスね。ちゃんと意図を汲み取ってくれて。やっぱりセバスでないとダメね」
グッジョブだと、お褒めの言葉をいただきました。
お嬢様方のお泊まり会の翌日、言われていた通りに手作り絵本をライラ様へお持ちしました。
懐かしいと、お嬢様方の弾んだ声と笑顔が溢れます。
「ありがとうセバス。大切にしまっていてくれて。セバスに任せれば安心ね。本当に、いつもありがとう」
「セバス、あずかっていてくれてありがとう。綺麗にとっていてくれて…とても嬉しいわ。我が儘を言ってごめんね。セバスにお願いすれば、何も心配いらないわね。いつも、いろいろたくさんありがとう」
お嬢様方から感謝のお言葉をいただきました。
うっかり泣きそうになったわたくしを見て、ライラ様は微笑みながら抱きつき、アリシア様はハンカチを差し出してくださいました。
大切なわたくしのお嬢様方は、今日も健やかにお過ごしでございます。




