恋side 恋の心情
記憶喪失なんて嘘をついて私は春季君の家に転がり込んだ。 自分がとても最低な事をしているって自覚はある。 それでも春季君は私にあれこれ言いながらいろいろ親切にしてくれている。
春季君の友達だってそう、莉華ちゃんや涼君もとても優しかった。 こんな嘘つきの私に莉華ちゃんは自分のお洋服まで貸してくれて。 私こんないい人達をみんな騙してるんだって思うと上手く笑えなくなる。
こんな事して笑ってていいの? なんて思うけど春季君の家に来てから私はとても楽しい。
心からこんなに笑えるなんて本当に久し振り。 春季君の家に転がり込んでよかった。 最低な私の良い部分と悪い部分がずっとせめぎ合っているけどあんな家に戻るくらいなら…… 私ずっと春季君の家にいたい。
春季君に甘えていたい、春季君のお世話をしたい、私は春季君が喜ぶ事ならなんだってしてあげたい。 だから春季君、私の事を守って欲しい。 私を捨てないで欲しい、お父さんの所へなんか帰りたくない!
ほら、私ってやっぱり最低な非常識人間だ。 自分の事ばっかり…… お父さんから逃げたいから春季君に甘えるの? 春季君じゃなくても自分に優しくしてくれるなら誰でもよかったの?
私はバカだから記憶喪失なんていつもボロが出そうになっちゃう。 春季君も私が記憶喪失かどうか少し疑ってるような気がする。
でも深く追求してこないのをいい事に私は春季君に好きになってもらいたいって思ってる。 だって…… そうすれば私は春季君から捨てられないと思ったんだ。
私って最低な人間の血を継いでいるだけある。 でも全部その為の演技? なんて言われるとわからない。 いつも学校でも家でもビクビクしていた私にはその他の感情を持つ余裕なんてなかったから全くわからない。
莉華ちゃんからお洋服を貸してもらった次の日私は早くに目が覚めた。 目の前に春季君の顔があった。 寝ている彼の顔を見ていると可愛いなって思ってしまった。
春季君、私の本当の名前は渚、でも春季君の付けてくれた恋って名前。 私そっちの方が好きだよ? 嘘つきな私だけど嘘じゃないよ?
なんて心で思っても言えない…… だって言っちゃったら春季君は私を失望しちゃうだろう。 嘘つき女の私なんてすぐに捨てられちゃう。
春季君ごめんなさい、私は貴方を騙しています、利用しています、でも頼れるのは春季君だけなんです、今が良いからって凄く甘えてるんです。 本当に、本当にごめんなさい。 私は春季君の前でいつの間にか泣いていた。
こんな形で出会ってなかったら私はきっと春季君の事好きになっていたかも…… そんな感情わからないって言ってたくせに?
でも春季君を見ているとドキドキしてくる。 これって好きって事? 出会って2、3日で? 私ってそんな惚れっぽい女だったの? 春季君が頼れるからそう思うだけ? やっぱり優しくしてくれたから? どれだけ考えても疑問符は消えない……
でもこんな私は春季君の事好きになっちゃいけないんだ、春季君に失礼だ。 そっと彼に触れてみようと思った。 触りたい……
寝ている彼に手を伸ばす。 起きませんように…… 彼の髪の毛をそっと触る、そして髪の毛からおでこ、そして頬へ。
暖かい…… 春季君とっても暖かい。 私まで暖かい気持ちになれる。 それに安心する。 体が熱くなってきた、これ以上は春季君が起きちゃうと思ってそっと手を離す。
何かしてあげたい。 私は罪悪感なのか春季君の想いからなのかはわからないけどそんな気持ちになった。寝ている春季君を起こさないようにそっと起き上がる。
朝の5時半過ぎ…… とりあえず春季君の家の中お掃除しよう! 昨日やったけど。 そして簡単に掃除を済ませて次はどうしようって思ったらお弁当箱があった。
そうだ! お弁当用意しよう、春季君に美味しいお弁当作ってあげたい、私少し自信あるんだ。お母さんが離婚してから私が料理してたんだもん。
不味い物を作るといつもお父さんに叱られていたからその度に上達していったんだ。 それは無駄じゃなかった、この為にあったんだねって私は思いながら春季君のお弁当を作っていく。
全部食べてくれるかな? 美味しいって言ってくれるかな? こんな気持ちで料理を作るのも初めて。 私は春季君の美味しいよって言ってくれる顔を思い浮かべて作った。
あ、朝ご飯も作らなきゃ! 急いで作らないと春季君パンだけで良いよって言いそうだし。
そして準備も終わったので春樹君が寝ている寝室に向かう。 彼はまだ先程のように寝ていて私はベッドの横へ座り彼の寝顔をまた見る。
私精一杯春季君のお世話をするからね?だから…… だからお願い、私と一緒に居て。居させて下さい! そう思っていたら春季君が急に目を覚ましたのでビックリした…… なんとか誤魔化して朝ご飯を食べてもらいお弁当を渡した。
彼はやっぱりお弁当は持っていかない派だったけど今日はお弁当持って行くって言ってくれた。 嬉しいな、私これからいっぱい春季君の為に作るよ。
そして学校へ春季君が行こうとすると私は突然寂しくなった。 お母さんみたいに突然私を置いて居なくなるとか考え出した。 そんな事あるわけないけど少しでも一緒に居たいなって思った私は無理言って学校の近くまでついていく事にした。
春季君は私と歩くと自分と釣り合わないとか言ってるけどそんな事ないよ? 春季君だって私かっこいいって思ってるし何より私が一緒に行きたいんだもん!
そして春季君の通学路を一緒に歩く。毎日ここを通るんだねぇと思って私はキョロキョロしているともう学校が見えたので私はここで引き返すねって春季君に言って引き返すフリをして見えなくなるまでずっと彼を見ていた。
行っちゃった…… 帰ろう。 帰ってくると誰もいない春季君の部屋の居間でずっと寂しい時間が流れる。 私ひとりぼっち…… 携帯とかあればちょっとでも連絡取れたりするんだけどな。 お昼を食べるのも忘れ春季君が寝て居たベッドの隣に行き丸くなってひたすら時間が過ぎるのを待つ。
今何時だろう? 午後2時。 春季君私の作ったお弁当食べてくれたかな? うーん、ダメ! 迎えに行こう! 春季君は迷惑だって思うかもしれないけど、迎えに行っちゃおう!
私は思い立って今日引き返した所の電柱の陰に隠れていた。 人が通ると目立つから恥ずかしいけど春季君が来るまで我慢我慢って思ってどれくらい時間がたっただろう? 早過ぎたよね……
疲れてきた。 それにやっぱり私といるとこ見られるの嫌だろうし帰った方がいいかもとチラッと顔を出すと前から春季君が歩いて来た。 やっと来てくれた!
私は春季君が近付き身を乗り出した。
彼は私の予想以上に驚いていた。あれ? 私気持ち悪い女なのかな?って冷静に自分を振り返る。 気持ち悪いよね、ウザいよね…… 何が来ちゃったよ……
でもそれは私の勘違いで春季君は私を見て安心したから驚いたんだってわかった。良かったぁ……
だって私も春季君と一緒だと安心するんだもん、嬉しくなっちゃった、だから私も春季君と居ると安心するって伝えた。
こんな嘘つきで最低な私でもそんな風に思ってもらえるなら嬉しいな……
私は春季君を好きになっちゃいけない。 でもこの気持ちは春季君への罪悪感なのか私の春季君への想いなのかまだわからないけど私は……
「ああ! 春季君お弁当食べてくれた?」
「うん、凄く美味しかったよ。 ただ気合い入れ過ぎじゃね? 疲れないかあんなの作るの」
「全然! 美味しいって言ってくれるのを想像して作ってれば苦にならないもん」
「そういうもんか?」
「うん! 明日も作るね!」




