第99話 急報【エリアスSide】
屋敷へ戻る途中、ふと先ほどの日和を思い出した。
『じゃあ、両想い?』
『リリィ!』
分かりやすく慌てて、最後には顔まで赤くしていた。
『付き合ってないですよ。まだ、ですけどね』
そう答えたときの日和の顔まで思い出し、エリアスは小さく笑う。
その先は待ってほしいと言われている。それを破るつもりはないが、好意まで隠すつもりもない。会いたければ会いに行く、送りたければ送る、好きだと思えばそう言う。そのたびに日和が慌てるのも、最近では少し楽しくなっていた。
「……俺も大概だな」
だが、先ほど届いた通信を思い出した途端、その笑みは消えた。
王立魔術院からの急報。それもノア・エルディンからだという。
屋敷へ戻ると、オスカーが待っていた。
「旦那様」
「エルディンからの連絡は」
「こちらへ」
案内された部屋の机には、淡く明滅する魔石が置かれていた。
「ノア様から旦那様へ、どうしてもお伝えしたいことがあると。通常の通信術とは異なるようで、長くは保たないかと」
エリアスは魔石を手に取り、魔力を流した。
しばらくして、雑音混じりの声が聞こえてくる。
『……侯爵、様』
「ノア・エルディンか?」
『はい』
「エルディン、何があった」
『時間がありません。先に伝えます』
声は遠く、今にも途切れそうだった。
『召喚術が実行されました』
エリアスの眉が動く。
「……いつだ」
『数日前です。私も始まるまで知らされていませんでした。止めようとしたんですが、間に合わなくて』
「それで?」
一度、大きく雑音が走った。
『召喚された人物が分かりました』
「誰だ」
『穂積湊です』
エリアスの手が止まる。
忘れるはずがない。日和ではなく、本来この世界へ呼ばれるはずだった人間の名前だ。
「……日和の弟か」
『はい』
先ほどまで笑っていた日和の顔が浮かんだ。
あのときすでに、日和の弟はこの世界にいた。
「今どこにいる」
『分かりません。私は今、自由に動けないんです』
「どういう意味だ」
『召喚を止めようとしたことで、セドリック様から自室待機を命じられました。部屋の外には見張りがいます』
「……軟禁か」
『そういうことになります』
エリアスの表情が険しくなる。
「日和の弟とは話したのか」
『いいえ。一度も』
「セドリックは?」
『おそらく、すでに接触しています』
エルディンは日和が北部でどう暮らしているのかを知っている。その人間を日和の弟から遠ざけたとなれば、嫌な予感しかしない。
『侯爵様。できるだけ早く、湊さんに会ってください』
「ああ」
『それと、日和さんには――』
大きな雑音が走り、声が消えた。
「エルディン?」
返事はない。魔石から光が失われた。
「旦那様」
オスカーが声をかける。
「何がございましたか」
「召喚術が実行された。呼ばれたのは、日和の弟だ」
「……日和様の弟君が」
「ああ」
オスカーもすぐに意味を理解したらしい。
「日和様には、お知らせになりますか」
エリアスは少し考え、首を振った。
「まだだ。隠すつもりはないが、何も分からないまま伝えるわけにはいかない。まず俺が日和の弟に会う」
「かしこまりました」
「王都へ行く。出立の準備を」
「承知いたしました。ノア様のことは?」
「それも確認する。エルディンをあのままにはしておけない」
オスカーが一礼して部屋を出ていく。
1人になったエリアスは、光を失った魔石を見つめた。
ほんの少し前まで、日和はいつもの店で笑っていた。
次に会うとき、その日常を変える話をしなければならない。それでも、伝える前に確かめるべきことがある。
エリアスの眉間の皺が濃くなる一方だった
今日は21:00にも更新します~!




