第96話 姉を迎えに行くことにしました【湊Side】
姉が、この世界にいる。
そう聞かされても、すぐにすべてを信じることはできなかった。
「……証拠は?」
湊が尋ねても、セドリックは表情を変えない。
「当然の疑問でしょう」
「姉の名前を知ってるだけじゃ信じられません。なんでここにいるんですか。いつから?」
「日和様が召喚されたのは、あなたより少し前のことです。本来、我々がお呼びするはずだったのはあなたでした」
「……俺?」
セドリックによれば、召喚術は別の世界から必要な資質を持つ者を探し出す術らしい。そして術式が示したのが、穂積湊だった。
けれど、実際に現れたのは日和。
時期も、姉が突然いなくなった頃と重なる。
「なんで姉が俺の代わりに?」
「それは現在も調査中です。ただ、血縁が術式に影響した可能性があると聞いております」
湊は拳を握った。
自分を呼ぶための術で、姉が消えた。
「……姉は、今どこにいるんですか」
「北部です」
「なら会わせてください。場所が分かってるなら、今すぐ」
しかし、セドリックはすぐには答えなかった。
「それが、簡単ではないのです」
「どういう意味ですか」
「日和様は召喚されたものの、我々が必要としていた力を持っておられませんでした」
「それで?」
「本来であれば、我々の術に巻き込んでしまった方です。当然、国の責任で保護するつもりでした」
元の世界へ戻る方法が見つかるまで、安全な場所を用意し、生活も国が保障する予定だった。
そう説明したあと、セドリックはわずかに間を置いた。
「ですが、エリアス・フォン・レーヴェンという男が介入しました」
「誰ですか」
「北部を治める侯爵です。日和様を自ら引き取ると主張し、そのまま北部へ連れていきました」
湊の眉が寄る。
「ちょっと待ってください。姉は納得して行ったんですか?」
「突然この世界へ召喚された直後です。ひどく混乱されていたでしょう」
「そうじゃなくて」
湊の声が低くなる。
「姉本人が、その人についていきたいって言ったんですか」
セドリックはすぐには答えなかった。
「少なくとも、我々には日和様と十分に話し合う時間がありませんでした。その後も接触を試みましたが、彼の領内へ入ってからは自由に会うことが難しくなっています」
「……それ、捕まってるのと何が違うんですか」
「断言はできません」
セドリックは静かに答える。
「我々も、現在の日和様がどのような状況に置かれているのか、正確には把握できていないのです」
湊は黙り込んだ。
ようやく見つかった姉が、知らない男の領地にいる。
しかも自由に会うことさえできないという。
「会わせてください」
「湊様」
「本人に聞けば分かります。姉が自分でそこにいたいって言うなら、俺は無理に連れて帰ったりしません」
ただ、直接話したい。
生きている顔を見て、本当に無事なのか確かめたい。
「今すぐ姉のところへ行きたいです」
「お気持ちは分かります。しかし現在、それも難しい」
「なんでですか」
「西部を中心に、魔物の活動が急激に活発化しています」
「……魔物?」
「人を襲う異形の生物です。すでに被害が出ており、多くの兵が討伐へ向かっています」
「それが俺と何の関係があるんですか」
セドリックは湊を見た。
「あなたが召喚された理由です」
意味を理解して、湊の表情が変わる。
「……俺に、その魔物を倒せってことですか」
「強制するつもりはありません。ただ、あなたには魔物に対抗し得る高い資質がある」
「勝手に呼んでおいて、強制じゃないって言われても」
「ごもっともです」
セドリックは否定しなかった。
出来すぎている。
突然知らない世界へ呼ばれ、姉がいると教えられた。その姉には今すぐ会えないと言われ、自分には魔物を倒せる力があるという。
全部を信じるつもりはない。
それでも、姉が生きているという話だけは確かめたい。
「……魔物をどうにかしたら」
湊はセドリックを見る。
「姉に会わせてもらえますか」
「事態が収束すれば、我々も北部へ動くことができます。日和様との再会のため、可能な限りの手を尽くすとお約束しましょう」
曖昧な答えだった。
けれど今の湊には、他に姉へ辿り着く方法がない。
「分かりました」
「湊様」
「やります」
セドリックがわずかに目を細める。
「魔物でも何でも倒します。だから、そのあと姉のところへ連れていってください」
今までずっと、姉に助けられる側だった。
困ったときは先に気づいてくれて、何かあれば自分より湊を優先する。
姉ちゃんは大丈夫。
いつの間にか、そう思い込んでいた。
でも、もう違う。
今度は自分が行く。
「待ってて、姉ちゃん」
湊は小さく呟いた。
「今度は俺が助けるから」
若干不穏な匂いが…
次は17:00となりますφ(・ω・`)
(きゅんを書きたい…キュン…)




