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弟と間違えて召喚されたので、異世界で小料理屋をはじめます~小料理屋《宵日和》~  作者: HaKo
第5章 異世界暮らしは恋まで忙しいようです
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第87話 ちゃんと返事をしようと思います


翌日、いつもの時間にルカが店へやってきた。


注文していた食材を受け取り、数を確認する。海へ行く前と変わらないやり取りなのに、今日はどうしても落ち着かなかった。


「日和、これで全部?」


「うん。ありがとう」


「じゃあ、ここに印だけ頼む」


差し出された紙に印をつけて返すと、ルカは荷物をまとめ始める。


今しかない。


そう思うのに、いざ口を開こうとすると喉につかえる。


「……ルカ」


「ん?」


「今日、このあと少し時間ある?」


ルカの手が止まった。


日和の顔を見て、すぐに何の話なのか察したらしい。


「あるよ」


「じゃあ、ちょっとだけ付き合って」


「ああ」


日和は少し迷ってから、ルカと一緒に外へ出た。


人通りの少ない道まで歩いたところで足を止める。


「待たせてごめん」


「別に。待つって言ったのは俺だから」


「うん。でも、ちゃんと返事したくて」


ルカは何も言わず、続きを待ってくれた。


日和は一度息を吸う。


「ルカの気持ちには、応えられない」


言ってしまえば短い言葉だった。


ルカは少しだけ目を伏せ、それから小さく息を吐いた。


「……そっか」


「ごめん」


「謝らなくていいよ。そういうのは、どうしようもないだろ」


そう言って笑ったけれど、いつもの笑い方とは少し違う。


日和にはそれが分かってしまった。


「好きな人、できた?」


不意に聞かれ、日和は言葉に詰まった。


けれど、ここで誤魔化すのは違う。


「……うん」


「そっか」


ルカはもう一度そう言って、空を見上げた。


「それなら、まあ……仕方ないな」


「ルカ」


「今すぐ笑って応援できるほど出来た男じゃないけど」


少し困ったように笑う。


「でも、ちゃんと返事してくれてありがとう」


胸が痛んだ。


それでも、曖昧にしなくてよかったと思う。


「これからも、仕入れお願いしていい?」


「そこ心配してたの?」


「ちょっとだけ」


「断ったら親父に怒られるよ。せっかくいい取引先ができたのに何してるんだって」


「そこなんだ」


「そこそこ」


ようやく、いつものルカらしい笑い方になった。


「だから、これからも普通に来るよ。……まあ、しばらくはちょっと格好つけさせて」


「うん」


「次に来たときは、いつも通りで」


「分かった」


日和も笑った。


「ありがとう、ルカ」


「こっちこそ」


恋人にはなれなかった。


けれど、これまで積み重ねてきたものまでなくなるわけではない。


「じゃあ、また」


「うん。またね」


ルカが去っていくのを見送り、日和はしばらくその場に立っていた。


胸の奥に少し重たいものは残っている。それでも、ちゃんと伝えられた。


これでよかったのだと思う。


店へ戻る前に少しだけ遠回りをして歩いた。


夕方の風は少し冷たく、家々の窓には明かりが灯り始めている。もうすぐ宵日和も夜の営業だ。


家の近くまで戻ってきたところで、隣家の前に人影が見えた。


日和は足を止める。


栗色の髪。


見慣れた背中だった。


「……エリオさん?」


人影が振り返る。


久しぶりに見る淡い緑色の目が、日和を見た瞬間わずかに細くなった。


「日和さん」


「やっぱり。久しぶりですね」


「ええ。少し留守にしていました」


「仕事ですか?」


「まあ、そんなところです」


やっぱり忙しかったらしい。


そう納得しかけて、日和は眉を寄せた。


「……エリオさん?」


「はい?」


「顔色、悪くないですか?」


「そうですか?」


「そうですよ」


近づいてみれば、いつもより明らかに顔色が悪い。それどころか、扉に添えている手にも力が入っていないように見えた。


「ちょっと失礼します」


「え?」


日和は手を伸ばし、エリオの額に触れた。


熱い。


「熱あるじゃないですか」


「少し疲れているだけです」


「少しの人はそんな顔しません」


「寝れば治りますよ」


「本当に?」


「ええ」


答えた直後、エリオの身体がわずかに揺れた。


日和は反射的に腕を掴む。


「ほら!」


「……少し、立ちくらみが」


「それを大丈夫とは言わないんです」


「日和さん」


「とりあえず中に入りましょう。鍵、開けられます?」


エリオは何か言いたそうだったが、今度は反論しなかった。


日和が支えながら隣家へ入り、椅子まで連れていく。座った途端、エリオは疲れたように背もたれへ身体を預けた。


こんな姿を見るのは初めてだった。


「1人なんですよね?」


「ええ」


「食事は?」


「まだです」


「……でしょうね」


嫌な予感しかしない。


「私、これから店があるので一度戻ります。でも、終わったらまた来ますから」


「そこまでしなくても大丈夫です」


「今のエリオさんに言われても説得力ないですよ」


「寝れば――」


「治るんですよね。分かりました。じゃあ、ちゃんと寝ててください」


日和が言い切ると、エリオは諦めたように息を吐いた。


「……分かりました」


「あと、水は飲んでくださいね」


「はい」


「本当にですよ?」


「日和さん」


「何ですか」


「心配性ですね」


一瞬、言葉に詰まった。


どこかで聞いたような言葉だった。


「……誰かさんたちに言われたくないです」


「誰かさんたち?」


「こっちの話です」


エリオが少し笑う。


けれど、その笑顔にもいつもの余裕はなかった。


「じゃあ、あとで来ますから。絶対寝ててくださいね」


「分かりました」


隣家を出て扉を閉めても、日和はしばらくその場から動けなかった。


久しぶりに会ったと思ったら、随分ひどい顔をしていた。


「……本当に大丈夫かな」


気にはなる。


けれど、今は店を開けなければならない。


日和は何度か隣家を振り返りながら、宵日和へ向かった。


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