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弟と間違えて召喚されたので、異世界で小料理屋をはじめます~小料理屋《宵日和》~  作者: HaKo
第5章 異世界暮らしは恋まで忙しいようです
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第83話 7皿目 木の実のクッキー


翌朝、日和は昨日フィアと作った木の実のクッキーを手に庭へ向かった。


「……日和さん。やっぱり私も行くんですか?」


「一緒に作ったんだから、一緒に渡そうよ」


「でも、一昨日のお礼ですよね?」


「そうだけど、フィアも作ったでしょ」


隣を歩くフィアは、朝から落ち着かない。


庭ではマシューが植え込みの手入れをしていた。こちらに気づくと、作業の手を止めて立ち上がる。


「おはようございます。もう体調は大丈夫そうですね」


「はい。一昨日はありがとうございました」


「俺はオスカーさんを呼んだだけですよ」


「それでも助かったので。これ、お礼です」


日和は持っていた包みをフィアへ渡した。


「はい」


「……私が?」


「一緒に作ったから」


フィアは恨めしそうに日和を見たものの、しばらくして諦めたように包みを受け取る。


「……昨日、日和さんと作ったの。甘すぎないようにしてあるから」


「俺が甘すぎるの苦手なの覚えてたんだ」


「昔から知ってるんだから、それくらい覚えてるよ」


「そっか。ありがとう」


マシューが嬉しそうに受け取る。


「木の実もフィアが選んでくれたんですよ」


「日和さん」


小声で咎められたが、聞こえないふりをした。


「それなら絶対好きなやつだ」


マシューは包みを見て、それからふと思いついたように笑った。


「せっかくだし、明日まで残しておこうかな」


「明日?」


フィアが聞く。


「うん。明日、彼女が来るんだ」


一瞬、空気が止まった。


「……彼女?」


日和が聞き返す。


「付き合ってる子です。最近なんですけどね」


マシューが少し照れたように笑う。


「前から気になってた子がいて、この前ようやく付き合えることになって」


日和は隣を見ることができなかった。


フィアも何も言わない。


「……フィアには言ってなかったっけ?」


「聞いてないよ」


ようやく返ってきた声は、思ったより普通だった。


「そっか。今度紹介するよ」


「うん」


ほんの少しだけ間が空く。


それからフィアは笑った。


「……おめでとう」


「ありがとう」


マシューも笑う。


「じゃあ、これ彼女と食べるよ。2人ともありがとう」


その言葉にフィアはもう1度笑って、「うん」と頷いた。


マシューと別れ、2人で別宅へ戻る。


行きは落ち着かなかったフィアが、帰りは妙に静かだった。


「……喜んでもらえてよかったですね」


「うん」


「彼女さんも、気に入ってくれるといいな」


「フィア」


日和が呼ぶと、フィアは笑った。


「大丈夫ですよ」


「そっか」


それ以上は聞かなかった。


しばらく2人で歩く。


けれど別宅が見えてきたところで、フィアが足を止めた。


「……やっぱり、ちょっとだけ大丈夫じゃないです」


日和も立ち止まる。


「うん」


「マシュー、嬉しそうでしたね」


「そうだね」


「私、告白もしてないから、振られたわけでもないんですけど」


フィアが少しだけ俯く。


「勝手に好きで、勝手に期待してただけだから」


「好きだったことまで、勝手だったみたいに言わなくていいと思う」


フィアが顔を上げた。


「マシューさんが知らなかったことと、フィアが好きだったことは別でしょ」


「……はい」


「悲しいなら、悲しくていいよ」


フィアは少し黙ってから、小さく頷いた。


「……でも、おめでとうって言えてよかったです」


「うん」


「本当に好きだから、幸せなら嬉しいのも本当なんです。……ちょっと悔しいですけど」


「それくらいはいいんじゃない?」


「いいですかね」


「いいよ」


フィアがようやく少し笑った。


日和もつられて笑う。


「戻ったら、残ってるクッキー食べよっか」


「食べます」


「甘いもの食べて、今日はゆっくりしよう」


「はい」


2人でまた歩き出す。


日和はふと、フィアの横顔を見た。


好きだと言わないまま、終わる恋もある。それが悪いとは思わないし、フィアが気持ちを伝えていたら何かが変わったのかも、今となっては誰にも分からない。


ただ、言わなくても終わるときは終わる。


そのことだけが、少し胸に残った。


甘いはずの木の実のクッキーは、今日だけ少し苦い味がするかもしれない。


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