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弟と間違えて召喚されたので、異世界で小料理屋をはじめます~小料理屋《宵日和》~  作者: HaKo
第6章 異世界暮らしは恋まで忙しいようです
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第73話 今まで通りが少し難しいです


ルカが店に来たのは、海へ行くことが決まってから2日後だった。


「日和、頼まれてたやつ持ってきたよ」


「ありがとう。そこ置いてもらっていい?」


「はいはい」


いつもと同じ声に、いつもと同じ笑顔。それなのに日和は妙に落ち着かなかった。


あの日から初めて会う。


――俺、日和のことが好きです。


思い出した途端、受け取った籠を置く動きまでぎこちなくなる。


「……重い?」


「え?」


「いや、なんか変な持ち方してるから」


「あ、大丈夫」


慌てて持ち直すと、ルカが少し笑った。


「そんな緊張しなくてもいいのに」


「……してないよ」


「してるよ」


即答された。


今までなら普通に話せていたのに、好きだと言われただけでどう話せばいいのかまで分からなくなる。ルカが来れば仕入れの話をして、くだらない話をして、時間があれば何か食べていく、それだけだったはずなのに。


「返事、急がなくていいって言ったでしょ」


「……うん」


「だから今まで通りでいいよ」


「今まで通りが分からなくなってる」


正直に言うと、ルカが吹き出した。


「そこまで正直に言う?」


「だって本当に分からないし」


「じゃあ、そのうち慣れて」


「雑だなあ」


「考えすぎるよりいいでしょ」


そう言って笑う顔がいつも通りで、日和も少しだけ肩の力が抜けた。


ルカはそれ以上、告白の話をしなかった。代わりに持ってきた野菜の出来や最近の値段、南から入ってきた品の話をしているうちに、日和もいつものように質問を返せるようになる。


「そういえば、数日店休むかも」


「珍しいね。どこか行くの?」


「海」


「海?」


「領内の沿岸部に行くことになって。港とか市場も見られるみたい」


口にすると自然と声が弾んだ。この辺にはない魚もあるらしいし、加工品や塩も見てみたい。


「完全に仕入れの顔になってる」


「だって気になるでしょ」


「日和はそうだろうね」


ルカが笑う。


「でも急だね。1人で行くの?」


「知り合いが領内の視察で行くらしくて、特産品に興味があるなら一緒に来るかって」


「知り合い?」


「うん」


ルカが少し黙った。


「……男?」


「男だけど」


返した途端、ルカの眉がわずかに動く。


「あ、でも2人じゃないよ。視察だから他にも人がいるし」


「……そっか」


「今ちょっと安心した?」


「した」


素直に認められて、今度は日和が黙った。


「好きな人が知らない男と海に行くって聞いたら、そりゃちょっとは気になるよ」


「あ……ごめん」


「なんで日和が謝るの」


「いや、なんとなく」


「謝らなくていいって。返事もまだもらってないのに、俺が日和の行動に口出すのは違うでしょ」


ルカはそう言って、いつものように笑う。


「行きたいんだよね?」


「……うん。海も見たいし、食材も気になる」


「じゃあ楽しんでおいでよ」


「いいの?」


「だから、なんで俺に許可取るの」


「それもそうか」


「そうだよ」


日和もつられて笑うと、少しだけいつもの空気に戻った。


「せっかく行くなら色々見てきたらいいよ。この辺じゃ入らないものがあったら教えて、商会で扱えるかもしれないし」


「結局仕事の話になるんだ」


「商人だからね」


「じゃあ何か面白いもの探してくる」


「期待してる」


いつもの会話なのに、やっぱり以前とは少し違う。好きだと言われたことは消えないし、日和はまだ答えを出せていない。


ルカといるのは楽しい。話しやすくて優しくて、一緒にいて疲れない。でも、それがルカの言う「好き」と同じなのかはまだ分からなかった。


「じゃ、俺そろそろ行くよ」


「うん。ありがとう」


扉へ向かったルカが途中で振り返る。


「日和」


「ん?」


「楽しんできて」


からかうような調子ではなかった。日和は少しだけ目を瞬いて、それから頷く。


「……うん」


「帰ってきたら話聞かせて」


「分かった」


ルカが店を出ていくのを見送り、日和は小さく息を吐いた。


優しいな、と思う。だからこそ適当な返事はしたくないし、待つと言ってくれたなら自分もちゃんと考えたい。


数日後には海へ行く。そして、その隣にはエリアスがいる。


そう考えただけで胸の奥が少し騒がしくなり、日和は無意識に胸元へ手を当てた。


ルカと話していたときとは、少し違う。


その違いが何なのかは、まだ分からなかった。


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