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弟と間違えて召喚されたので、異世界で小料理屋をはじめます~小料理屋《宵日和》~  作者: HaKo
第6章 異世界暮らしは恋まで忙しいようです
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第71話 帰ってきたのに機嫌が悪いです


「……おかえりなさい」


そう言うと、エリオは一瞬だけ目を見開いた。


「ただいま」


今度はさっきより少し柔らかい声だった。


「今日戻ってきたんですか?」


「ええ。夕方に着きました」


「1か月もかかりましたね」


言ってから、日和はしまったと思う。まるでずっと数えていたみたいだ。


エリオも気づいたらしく、わずかに口元を緩める。


「数えていたんですか?」


「違います。大体です」


「そうですか」


「なんですか、その顔」


「いえ。待っていてくれたのかと思って」


「……常連さんが急に1か月も来なくなったら気になりますよ」


「なるほど。常連だから」


なぜか少し残念そうに聞こえた。


「それより、王都は大丈夫だったんですか? 思ったより長かったから、何かあったのかと思って」


「仕事が長引いただけです。日和さんは?」


「私?」


エリオの視線が日和の服装へ向く。


「どこかへ出かけていたんですか?」


「ああ、今日は店が休みだったので」


「1人で?」


「ルカと」


エリオの表情が止まった。


「……フェルナーさんと?」


「はい」


「仕入れですか?」


「違いますよ。今日は普通に出かけてました」


「2人で?」


「2人で」


エリオが黙る。


「……どうしたんですか?」


「いえ」


明らかに何かある。


「楽しかったですか?」


「楽しかったですよ。普段行かない通りを歩いたり、焼き菓子を食べたり」


「そうですか」


「なんか機嫌悪くないですか?」


「悪くありません」


「悪い人の言い方ですよ、それ」


日和が笑っても、エリオは笑わない。


「フェルナーさんとは、よく2人で出かけるんですか?」


「今日が初めてです」


「向こうから誘ったんですか?」


「そうですけど」


「そうですか」


「さっきから何なんですか?」


「別に」


「絶対なんかある」


日和が覗き込むと、エリオはわずかに視線を逸らした。


その様子がおかしくて少し笑ったものの、今日のことを思い出すと、日和の胸はまた重くなる。


――俺、日和のことが好きです。


返事は待つと言ってくれた。それでも、ちゃんと考えなければならない。


エリオが日和を見る。


「……何かありました?」


「え?」


「元気がない」


「そんなことないですよ」


「あります。王都へ行く前と少し違う」


1か月も会っていなかったのに、そんなことが分かるのだろうか。


「疲れてるだけです」


「フェルナーさんと何かあったんですか?」


「なんでルカになるんですか」


「今日一緒にいたので」


「違いますよ」


否定すると、エリオの顔がほんの少し緩んだ。


分かりやすい。


「じゃあ、何があったんですか?」


日和は少し迷った。


ルカに告白されたことは、まだ誰にも話す気になれない。でも元気がなかった理由は、それだけではなかった。


「……エリアス様に、縁談があるって聞いたんです」


エリオの表情が止まる。


「……誰に?」


「お客さんが話してて。王都の貴族の娘と縁談があるらしいって」


「……」


「まだ噂みたいですけどね」


エリオはしばらく黙ったあと、小さく息を吐いた。


「それで、元気がなかったんですか?」


「それだけじゃないですけど……たぶん、そのせいもあります」


「なぜ?」


「それが分からないんですよ」


日和は困って笑う。


「侯爵なんだから縁談くらいありますよね。32歳だし、結婚しても全然おかしくないし」


「……32歳は、そこまで歳ではないと思いますが」


「そこ気にします?」


「少し」


「エリオさんの話じゃないですよ」


「分かっています」


妙に真剣だ。


日和は首を傾げながら続ける。


「とにかく、エリアス様が結婚するかもしれないって聞いたら、なんか嫌だったんです」


エリオの目が日和へ向く。


「……嫌だった?」


「はい。知らない人が隣にいて、一緒に暮らして、毎日食事するのかなって考えたら……嫌だなって」


「……」


「変ですよね。私には関係ないのに」


「変ではないと思います」


「ミレイユにも似たような反応されたんですよ。分かりやすいって」


「……そうでしょうね」


「エリオさんまで?」


思わず睨むと、エリオは少しだけ口元を緩めた。


「なんで嫌なのか、自分でも分からないんです」


「無理に分かろうとしなくてもいいのでは?」


「そういうものですか?」


「そのうち分かるかもしれません」


「ミレイユと同じこと言う」


日和は小さく息を吐いた。


「でも、王都にいたならエリオさんも噂くらい聞きました?」


一瞬、エリオが黙る。


「……ええ」


「本当なんですか?」


「縁談の話が出ていること自体は、本当です」


胸が沈む。


自分でも分かるくらい、顔に出たらしい。エリオの眉が寄った。


「ただ」


「?」


「決まったわけではありません」


「そうなんですか?」


「ええ。少なくとも、婚約したという話ではありません」


「……そっか」


思わず息が抜けた。


それだけで、胸につかえていたものが少し軽くなる。


「よかった」


エリオが黙った。


「……よかったんですか?」


「え?」


「エリアス様の縁談が決まっていなくて」


改めて聞かれると困る。


「……はい。たぶん」


「そうですか」


今度はエリオの機嫌が目に見えてよくなった。


日和は眉を寄せる。


「さっきまでルカの話であんなに機嫌悪かったのに」


「悪くありませんでした」


「まだ言うんですか?」


「事実です」


「じゃあ、なんで今ちょっと嬉しそうなんですか?」


「気のせいです」


「絶対違う」


エリオは答えず、わずかに笑う。


やっぱり今日のエリオは変だ。


けれど日和も、人のことは言えなかった。


ルカに好きだと言われた。エリオが帰ってきて嬉しかった。そしてエリアスの縁談が決まっていないと聞いて、ほっとした。


どれも本当なのに、どれひとつ自分でもうまく説明できない。


「……難しいなあ」


「何がですか?」


「こっちの話です」


日和がそう答えると、エリオは少し不思議そうな顔をした。


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