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弟と間違えて召喚されたので、異世界で小料理屋をはじめます~小料理屋《宵日和》~  作者: HaKo
第5章 異世界暮らしは恋まで忙しいようです
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第69話 分からないなら、行ってみればいいらしいです


「ごちそうさま」


「はい、お粗末さまでした」


ルカが食べ終えた皿を下げ、日和はカウンターを拭く。ほかの客はすでに帰り、店には2人だけになっていた。


「じゃあ、俺もそろそろ帰るかな」


「うん。荷物ありがとう、助かった」


「また足りなくなったら言って」


「お願いします」


ルカが立ち上がりかけて、ふと動きを止める。


「日和」


「何?」


「今度、休みの日ある?」


「休み? あるけど……どうしたの?」


ルカは少し言いづらそうに視線を逸らしてから、日和を見る。


「よかったら、俺と出かけない?」


「……出かける?」


「うん。店とか仕入れとか関係なく、2人で」


日和は瞬きをした。ルカとは市場へ行ったこともあるし、仕入れ先を見に行こうという話もしたことがある。でも今回は、それとは少し違う気がする。


「それって……」


「返事は今じゃなくていいよ。急に言われても困るだろうし、次に来たとき聞かせて」


「あ、うん」


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」


扉が閉まっても、日和はしばらくその場に立っていた。


店でも仕入れでもなく、休みの日に2人で。


「……デート、だよね」


翌日、宵日和にやってきたミレイユへ話すと、案の定同じ答えが返ってきた。


「デートね」


「やっぱり?」


「それ以外に何があるのよ」


「でも、デートとは言われてないよ」


「言わなくても分かるでしょ」


ミレイユは酒を飲みながら日和を見る。


「で、どうするの?」


「それを相談したかったの」


「商会の坊っちゃんと出かけるのは嫌?」


「嫌じゃないよ。話しやすいし、一緒にいて楽しいし」


「じゃあ、誘われて嬉しかった?」


「え?」


日和は答えようとして口を閉じた。


嫌ではなかったし、驚いた。でも素直に嬉しかったかと聞かれると、すぐには頷けない。


「……分からない」


「行きたいとは思った?」


「それも、よく分からなくて」


「ふうん」


ミレイユは杯を傾けながら、じっと日和を見る。


「エリオさん、まだ帰ってこないの?」


「うん、もう1か月」


返事はすぐに出た。


ミレイユの眉が少し上がる。


「ちゃんと数えてるのね」


「別に数えてたわけじゃないよ。こんなに長いと思ってなかったから」


「寂しい?」


「寂しいっていうか……いつもの席にいないと、なんか変な感じがする」


日和はカウンターの端を見る。その視線を追ったミレイユが、小さく笑った。


「なるほどね」


「何、その顔」


「別に?」


明らかに何か思っている顔だ。


日和は少し迷ってから、声を落とした。


「あと昨日、ちょっと嫌な話を聞いたの」


「どんな?」


「前に話した、顔の怖い人覚えてる?」


「覚えてるわよ。日和が前に世話になってた人でしょ? 無口で、説明が足りなくて、怖い顔してるけど本当はいい人」


「そんなに言ったっけ?」


「結構聞いたわよ」


「……そっか」


「その人がどうしたの?」


「縁談があるかもしれないんだって」


ミレイユの目が少し細くなる。


「へえ。それで?」


「それでって?」


「日和はどう思ったの?」


聞かれて、日和は黙る。


まだ噂だ。決まったわけでもないし、自分には関係のない話。それなのに昨日からずっと胸の奥に残っている。


「……嫌だった」


「何が?」


「その人が誰かと結婚するって考えたら」


言葉にすると、胸がまたざわついた。


「知らない人が隣にいて、一緒に暮らして、毎日一緒に食事するのかなって考えたら……なんか嫌で」


ミレイユは何も言わない。


「別に私には関係ないのにね。結婚してもおかしくない年齢だし、立場的にもそういう話はあるだろうし」


「なのに嫌なのね」


「……うん」


ミレイユはしばらく日和を見てから、呆れたように息を吐いた。


「分かりやすいわねえ」


「何が?」


「あんたが」


「私?」


「商会の坊っちゃんに誘われて、行きたいかどうかは分からない。でもエリオさんが帰ってこない日数はすぐ出てきて、顔の怖い人が誰かと結婚するのは嫌」


「……」


「しかも、知らない女と一緒に暮らして毎日食事するところまで想像してる」


「だって、結婚したらそうなるでしょ?」


「そういうことじゃないのよ」


ミレイユはとうとう笑った。


「日和って、人のことはよく見てるのに自分のことになると本当に鈍いわね」


「ガルドさんにも似たようなこと言われた」


「珍しく正しいこと言うじゃない」


「本人に言ったら怒るよ」


「いいのよ、いないし」


日和も少し笑ったものの、すぐにミレイユを見る。


「……ミレイユ、何か分かった?」


「分かったわよ」


「何?」


「教えない」


即答された。


「なんで?」


「自分で分かりなさい」


「相談した意味ないじゃん」


「あるわよ」


ミレイユは杯を置く。


「商会の坊っちゃんと出かけてきなさい」


「え?」


「嫌じゃないんでしょ?」


「嫌じゃないけど……でも、中途半端な気持ちで行くのって失礼じゃない?」


「付き合うわけじゃないんだから、そこまで考えなくていいのよ。2人で出かけるだけ」


「そうだけど」


「それに、分からないなら確かめてくればいいじゃない」


「何を?」


「自分の気持ち」


ミレイユは少しだけ笑った。


「商会の坊っちゃんと2人で出かけて楽しいなら、それでいい。何か違うと思ったなら、それも答えよ」


「……うん」


「もしかしたら、その間ずっと別の誰かのこと考えてるかもしれないし」


「別の誰か?」


日和の頭に、栗色の髪が浮かぶ。


そのすぐあと、なぜか灰色の髪と青みがかった灰色の目まで浮かんだ。


ミレイユがにやりとする。


「ほら」


「何?」


「なんでもない」


「絶対なんかあるでしょ」


「教えないって言ったでしょ」


ミレイユは楽しそうに酒を飲む。


「行ってきなさい、日和。たぶん今のあんたには、その方がいいわ」


日和は少し考えてから、頷いた。


「……うん」


数日後、ルカが店へやってきた。


「この前の話、考えてくれた?」


少し緊張した顔で聞かれ、日和は頷く。


まだ自分がどうしたいのかは分からない。でも、分からないなら確かめてみようと思った。


「うん」


日和はルカを見る。


「行く。一緒に出かけよう」


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