第44話 今日はお休みだそうです
宵日和を開いて、3週間が経った。
最初の一週間が嘘のように、最近では客が一人も来ない日はなくなった。
ダリオが紹介してくれた客が別の客を連れてきたり、通りがかりに店を覗いていた人が入ってきたり。
まだ満席になるほどではない。
それでも昼時にはいくつかの席が埋まり、日和が一人で切り盛りするには、少し忙しいくらいの日も出てきた。
「いらっしゃいませ」
昼を少し過ぎた頃、扉が開く。
「こんにちは、日和様」
聞き覚えのある声に、日和は顔を上げた。
「オスカーさん?」
そこに立っていたのは、侯爵邸の執事だった。
ただし今日は、いつものきっちりとした服装ではない。落ち着いた色の上着を着ていて、ずいぶん印象が違う。
「どうしたんですか?」
「本日は休みをいただいておりまして」
「オスカーさんにも休みってあるんですね」
「もちろんございます」
少しだけ心外そうに返される。
「せっかくの休みですので、昼食をいただこうかと」
「わざわざ来てくれたんですか?」
「日和様のお料理は久しぶりですから」
オスカーは穏やかに笑った。
もちろん、それだけが理由ではない。
このところ、主人の様子が少しおかしい。
仕事に支障があるわけではなかった。書類もいつも通り処理しているし、領主としての仕事も滞りなくこなしている。
ただ、ときどき妙に考え込んでいる。
帰りが遅い日も増えた。
何かを聞こうとして、結局何も言わないこともある。
そして先日、フェルナー商会の名前が出たときには、ほんのわずかに眉間の皺が深くなった。
思い当たることがあるとすれば――。
「オスカーさん?」
「はい」
「何食べます?」
「お任せしても?」
「もちろんです」
日和は嬉しそうに厨房へ向かった。
オスカーは店内を見回す。
以前来たときとは違い、すっかり料理屋らしくなっている。
壁には品書きがあり、使われた器が重ねられている。少し前まで客が座っていたらしい席もあった。
「お店は順調そうですね」
「おかげさまで。最近は少し忙しい日もあるんですよ」
厨房から明るい声が返ってくる。
「それは何よりです」
「ルカさんにも仕入れで色々よくしてもらってますし」
オスカーの眉が、わずかに上がった。
「ルカさん?」
「ルカ・フェルナーさんです」
「……なるほど」
「知ってます?」
「ええ。フェルナー商会は、この辺りでは大きな商会ですから」
「やっぱり有名なんですね」
日和は何でもないことのように答える。
オスカーは少し考えた。
「ずいぶん親しくなられたのですね」
「そうですか?」
「お名前で呼んでいらっしゃるので」
「ああ。そういえば、最近そうなりました」
「なるほど」
オスカーは静かに頷いた。
少なくとも、一つは分かった気がする。
「どうかしました?」
「いいえ、何も」
オスカーはいつもの穏やかな笑みを浮かべる。
今日は休みだ。
せっかく客として来たのだから、まずは久しぶりの日和の料理を楽しもう。




