↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/120

第4話 役立たずなので、出ていけと言われました


翌朝、日和は王宮の一室へ呼び出された。


案内された部屋には長いテーブルがあり、その向こう側に数人の男たちが座っている。昨日の検査で見かけた顔もあれば、初めて見る顔もあった。


ノアもいる。


ただし、今日は日和の隣ではなく、少し離れた場所に立っていた。


どう見ても楽しい話をする雰囲気ではない。


「お掛けください」


中央に座る男に促され、日和は椅子に腰掛けた。


年齢は50代半ばくらいだろうか。白髪の混じった髪をきれいに撫でつけ、上質そうな服を身につけている。柔らかな物腰なのに、妙な圧があった。


「私はセドリック・ヴァレンタイン。この国で宰相を務めております」


「穂積日和です」


「存じております。この度の召喚については、こちらの不手際により多大なご迷惑をおかけしました」


セドリックはそう言って頭を下げた。


思っていたより、ちゃんと謝る人らしい。


「それで、私の今後についてお話があると聞いたんですが」


「はい」


セドリックの前に置かれた紙へ視線が落ちる。


「昨日行った検査の結果、日和殿には勇者としての適性が確認されませんでした。魔力量、身体能力ともに一般的な範囲であり、特別な加護や固有能力も確認されておりません」


「それは昨日聞きました」


「であれば、話は早い」


セドリックは淡々と続ける。


「残念ながら、あなたを勇者として迎えることはできません」


「……はい」


そこは仕方がない。


日和自身、勇者になりたいわけではない。むしろ剣を持って戦争へ行けと言われるより、ずっとありがたい。


問題は、その先だった。


「そこで、今後についてですが。王宮での滞在は本日までとさせていただきます」


「…………はい?」


思わず聞き返した。


「本日まで?」


「はい」


「今日、出ていくってことですか?」


「そのようになります」


あまりにさらりと言われて、一瞬理解が追いつかなかった。


「ちょっと待ってください」


「何でしょう」


「私、昨日この世界に来たばかりなんですけど」


「承知しております」


「文字も読めません」


「当面の生活に必要な金銭はこちらで用意いたします。また、数日間滞在できる宿も手配しましょう」


「その後は?」


「ご自身で生活していただくことになります」


日和は黙った。


数日分の宿。


少しのお金。


それで、あとは自分で生きていけということらしい。


「……確認してもいいですか?」


「どうぞ」


「私がここに来たのって、そちらの召喚が失敗したからですよね」


「結果としては、そうなります」


「私は来たいって言ってませんよね」


「もちろんです」


「帰る方法もない」


「現時点では」


「この世界の文字も読めない。お金の価値も、法律も、仕事の探し方も分からない」


「その点については、宿泊期間中に最低限の説明を受けられるよう手配いたします」


なるほど。


日和はようやく理解した。


この人たちにとって、自分は召喚に失敗して出てきたものなのだ。


本当なら弟が来るはずだった。


勇者として戦える人間が。


けれど出てきたのは、何の力もない29歳の女。


使い道がない。


だから、これ以上面倒を見る理由もない。


理屈としては分からなくもない。


でも。


「それって、事故を起こした側が言うことですか?」


部屋の空気が止まった。


ノアがこちらを見る。


セドリックの表情は変わらない。


「事故、ですか」


「そちらにとっては召喚の失敗かもしれませんけど、私にとっては人生なので」


自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


怒鳴るつもりはない。


泣くつもりもない。


ただ、納得できないだけだ。


「勝手に連れてこられて、帰れません。あなたには何の力もありません。だから数日分のお金を渡すので、あとは自分でどうにかしてください」


日和は首を傾げた。


「それ、普通に考えて結構ひどくないですか?」


誰も答えなかった。


しばらくして、セドリックが静かに口を開く。


「お気持ちは理解いたします」


「たぶん理解してないと思います」


ノアが小さく咳き込んだ。


セドリックの眉がわずかに動く。


「しかし、国にも事情があります。現在は戦時下です。勇者として召喚された方であれば、当然ながら国が責任を持って保護します。しかし、あなたにはその力がない」


「役に立たない人間に使うお金はないってことですか?」


「そこまで申し上げているわけではありません」


「だいたい同じだと思いますけど」


また空気が重くなる。


日和は小さく息を吐いた。


喧嘩をしたいわけではない。


ここで怒ったところで、帰れるわけでもない。


「分かりました」


「日和様?」


ノアが声を上げる。


「出ていけって言うなら出ていきます。ずっとここに置いてもらおうとも思ってませんし」


日和はセドリックを見る。


「ただ、もう少しだけ時間をください。文字を覚えて、仕事を探せるくらいになるまで」


「それは――」


「勝手に連れてきておいて、役に立たないから捨てるのか」


低い声が響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。