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弟と間違えて召喚されたので、異世界で小料理屋をはじめます~小料理屋《宵日和》~  作者: HaKo
第4章 異世界でもおいしいものは人を呼びます
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第39話 お隣さんが引っ越してきました


店を閉めた頃には、すっかり夜になっていた。


日和は戸締まりを確認し、今日受け取った硬貨を小さな袋にしまった。


宵日和で初めて、自分の料理で稼いだお金。


半分くらいは迷惑料らしいけれど、それでも売上は売上だ。


「……よし」


少しだけ足取りが軽くなる。


店から家までは歩いてすぐだ。


夜のアルノルトは、昼間よりずっと静かだった。ところどころに灯された明かりを頼りに歩き、日和は自分の住む建物へ戻った。


二階へ上がったところで、足を止める。


隣の部屋の前に、見覚えのない木箱がいくつか置かれていた。


日和が越してきたとき、隣は空き部屋だったはずだ。


「……誰か越してきたのかな」


まあ、隣人がいること自体は珍しくない。


日和が自分の部屋へ向かおうとした、そのときだった。


隣の扉が開いた。


中から、背の高い男が出てくる。


栗色の髪に、淡い緑色の目。年齢は30歳前後だろうか。柔らかな顔立ちで、服装も街でよく見かけるようなものだった。


男は日和を見る。


一瞬、驚いたように目を見開いた。


そして、なぜかそのまま黙った。


「……こんばんは」


先に声をかけたのは日和だった。


男は少し遅れて、


「こんばんは」


と返した。


「今日、越してきたんですか?」


「ええ。先ほど」


「やっぱり。私が来たときは空いてたので」


日和は自分の部屋を指した。


「私、隣の日和です。穂積日和」


「日和さん」


男がその名前を繰り返す。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


男は軽く頭を下げた。


そこで日和は気づいた。


「あの、お名前は?」


「私は……」


ほんの少しだけ間があった。


「エリオです」


「エリオさん」


「はい」


「よろしくお願いします」


日和が笑うと、エリオも柔らかく笑った。


感じのいい人だ。


日和は少し安心した。


廊下には、まだ木箱が残っている。


「引っ越し、大変ですね」


「だいたい終わりました」


「それ、重そうですけど大丈夫ですか?」


「ええ。これくらいなら」


エリオは木箱を持ち上げた。


見た目以上に重そうなのに、ずいぶん簡単に持ち上げる。


「力持ちなんですね」


「……それなりに」


少し困ったように笑った。


日和は自分の部屋の鍵を取り出す。


「じゃあ、おやすみなさい」


「はい。おやすみなさい」


日和が扉を開ける。


「あ」


何となく思い出して、振り返った。


「私、近くで料理屋をやってるんです」


エリオがわずかに目を瞬いた。


「そうなんですか」


「宵日和っていう、小さい店です。もしよかったら来てください」


一瞬。


ほんの一瞬だけ、エリオの表情が止まったように見えた。


「……宵日和」


「はい」


「いい名前ですね」


「ありがとうございます」


日和は笑った。


「まだ全然お客さん来ないんですけどね」


「それは……」


エリオは何か言いかけて、やめた。


「?」


「いえ。機会があれば、ぜひ」


「お待ちしてます」


今度こそ、日和は自分の部屋へ入った。


扉を閉めて、息を吐く。


「いい人そうでよかった」


隣人関係で揉めるのは面倒だ。


それに、店のお客さんが一人増えるかもしれない。


今日は初めて料理が売れて、新しい隣人もできた。


悪くない一日だった。


日和はそれ以上考えず、部屋の奥へ向かった。


廊下に一人残された男は、閉じた扉を見つめていた。


しばらくして、木箱を抱え直す。


声をかけるつもりはなかった。


ただ、隣の部屋に入るところを見届けるだけのつもりだった。


それなのに。


「……エリオ、か」


自分で口にしてから、男はわずかに眉を寄せた。


もう少し、考えておくべきだったかもしれない。

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