第14話 お客様にも出していいですか?
エリアスが屋敷へ戻ったのは、日が沈み始めた頃だった。
日和は厨房で、鍋の中を覗き込んでいた。
森茸の戻し汁で鶏肉と土芋、火玉をじっくり煮込んだものだ。市場で見つけた香草も少しだけ加えている。
「うん。前よりいいかも」
火玉はしっかり火を通すと甘みが出る。森茸の旨味とも相性がいい。
この世界の食材にも、少しずつ慣れてきた。
「日和様」
厨房の入口からオスカーに呼ばれ、日和は振り返った。
「エリアス様がお戻りになりました」
「ちょうどよかったです。もうすぐできます」
「ただ……」
オスカーが珍しく言葉を濁した。
「お客様がお一人、ご一緒です」
「お客さん?」
聞けば、領内の村からエリアスに相談があって訪れた人物らしい。本来なら昼過ぎに話を終える予定だったが、ずいぶん長引いたという。
「夕食はどうするんですか?」
「お客様には別にご用意する予定ですが」
日和は鍋を見る。
量はある。もともと少し多めに作っていたし、パンも余っている。
「これ、一緒に出したら駄目ですか?」
オスカーが少し驚いた顔をした。
「私たちが食べるものですよ?」
「ええ」
「お客様に?」
「おかしいですか?」
「いいえ。ただ、エリアス様のお客様にお出しする料理としては、少々素朴かもしれません」
なるほど。
貴族の屋敷に来た客なら、もっと立派な料理を出すものなのだろう。
日和はもう一度、鍋を見る。
茶色っぽい煮込み料理。確かに華やかさはない。
「でも、おいしいですよ」
「それは存じております」
オスカーが笑った。
「では、エリアス様に確認してまいりましょう」
しばらくして戻ってきたオスカーは、少し困ったような顔をしていた。
「エリアス様が、日和様に直接聞けと」
「何をです?」
「なぜ自分には確認しなかったのか、と」
「……面倒くさいですね」
「聞こえているぞ」
低い声がして、日和は肩を跳ねさせた。
厨房の入口にエリアスが立っていた。
「侯爵様。お帰りなさい」
「今、面倒くさいと言ったか?」
「言ってません」
「言ったな」
「それより、ごはんできてますよ」
エリアスは何か言いたそうな顔をしたが、諦めたらしい。
「客にもこれを出すつもりか?」
「駄目ですか?」
「いや」
エリアスは鍋を覗き込む。
「本人が構わないと言うなら、私は構わない」
「じゃあ聞いてきます」
「待て」
「はい?」
「なぜ君が聞きに行く」
「作ったの、私なので」
日和がそう言うと、エリアスはしばらく黙った。
「……好きにしろ」
「はい。好きにします」
客人は、応接室にいた。
年は40代くらいだろうか。日に焼けた顔に深い皺が刻まれ、服にはところどころ土がついている。
貴族ではなさそうだ。
テーブルの上には茶が置かれていたが、ほとんど手をつけていなかった。
「失礼します」
男が顔を上げる。
「夕食なんですけど、一緒に食べませんか?」
男は目を丸くした。
「……私が、ですか?」
「はい。ちょっと多く作ったので」
「しかし、私は……」
男は困ったようにエリアスを見る。
「私を見るな」
エリアスが言った。
「誘ったのは彼女だ」
「侯爵様も食べるんですよ」
「分かっている」
「じゃあ一緒ですね」
男はますます困った顔をした。
結局、3人で食卓を囲むことになった。




