↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟と間違えて召喚されたので、異世界で小料理屋をはじめます~小料理屋《宵日和》~  作者: HaKo
第6章 異世界でも穏やかには暮らせないようです
PR
104/159

第103話 西へ【エリアスSide】


王城を出た頃には、すでに日が傾き始めていた。


結局、セドリックには会えていない。日和の弟の居場所も、エルディンの状況も確認できないまま、それでも国王からの召しを無視するわけにはいかず、予定より長く王城に留まることになった。


レーヴェン家の別邸へ戻ると、使用人が待ち構えていた。


「旦那様」


その顔を見た瞬間、足を止める。


「何があった」


「アルノルトの本邸より、オスカー様から緊急の連絡が届いております」


嫌な予感がした。


「内容は」


「日和様がお倒れになったと」


一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


「……日和が?」


「はい。本日、店で突然意識を失われ、現在は本邸へお連れしているとのことです」


「意識は」


「まだ戻られていないと」


頭の中から、それまで考えていたことがすべて消えた。


「医師は」


「すでに診察を。命に関わる状態ではないとのことですが、倒れられた原因は分からないそうです」


命に関わる状態ではない。その言葉を理解しても、胸の奥に生じた焦りは消えなかった。


「オスカーと話す」


「すぐに準備いたします」


ほどなくして通信の魔石が用意され、魔力を流すと石が淡く光った。少しの間を置いて、オスカーの声が届く。


『旦那様』


「日和は」


挨拶をする余裕もなかった。


『現在、以前お使いになっていたお部屋でお休みいただいております。医師にも診ていただきました』


「原因は」


『分かっておりません。発熱もなく、呼吸も安定しております。ただ、まだ意識がお戻りにならず……』


無意識に、魔石を握る手へ力が入る。


「倒れる前に何かあったのか」


『ガルド殿のお話では、店でいつも通り仕込みをされていたそうです。会話もされており、直前まで特に変わったご様子はなかったと』


「……そうか」


何の前触れもなく倒れた。それが余計に気にかかった。


日和は自分の不調を隠す。誰かのことにはすぐ気づくくせに、自分のことになると大丈夫だと言う。本当に大丈夫なのかと聞けば、きっと今回もそう答えただろう。


『旦那様』


「なんだ」


『日和様がお目覚めになりましたら、すぐにご連絡いたします』


「いや」


考えるより先に答えていた。


「俺が戻る」


向こうでオスカーが少し黙る。


『……承知いたしました』


通信を切り、すぐに振り返る。


「転移の準備をしろ」


控えていた使用人が戸惑ったように顔を上げた。


「旦那様、王都からの転移は――」


「分かっている」


王都には大規模な防護結界が張られている。王城を中心に幾重にも重ねられた結界は外部からの侵入だけでなく、許可されていない転移魔法も阻害するため、王都から直接アルノルトへ転移することはできない。


だからこそ、ここへ来るにも馬車で3日かかった。


「帰りの馬車を用意いたします」


「いや」


同じ道を戻れば、また3日だ。


日和が意識を失ったままだというのに、そんなに待てるはずがない。


「結界の影響を最も早く抜けられる場所は」


「最も早く、ですか」


「ああ」


使用人が少し考え、やがて答える。


「西でしょうか。王国西部の中心都市、ヴェルグへ向かう街道なら、王都の防護範囲から比較的早く外れます。ただ、現在あちらでは魔物の出現が増えておりますので――」


「そこまで行けば転移できるな」


「結界の影響圏を抜ければ可能かと」


それなら決まりだ。


「馬を用意しろ。ヴェルグへ向かう」


「旦那様」


「なんだ」


「現在、西部は魔物の出現が増えております。ヴェルグ周辺にも被害が出ていると聞いておりますので、護衛の手配を――」


「必要ない。急ぐ」


立ち上がりかけたところで、ふと動きを止めた。


ヴェルグ。


西部で増えている魔物。


そして、この時期に行われた勇者の召喚。


召喚されたのは日和ではなく、本来呼ばれるはずだった弟だ。さらに俺が王都まで来ているにもかかわらず、セドリックは頑なに面会を拒んでいる。


「……まさか」


「旦那様?」


勇者を召喚した理由は何だ。


魔物に対抗する力を求めたからだ。


それなら、魔物の被害が増えている今、召喚した勇者を王都に置いておく理由はない。


視線を落とし、頭の中で状況をつなげる。


「日和の弟を……ヴェルグへ向かわせたか」


確証はない。


だが、あり得ない話ではなかった。


むしろそう考えれば、セドリックが俺との面会を避けている理由にも説明がつく。すでに日和の弟が王都にいないのなら、俺がいくら会わせろと言ったところで応じられない。


「旦那様、何か?」


「いや。まだ俺の推測だ」


今は考えても答えは出ない。


だがヴェルグへ向かえば、王都の結界を早く抜けてアルノルトへ転移できる。それだけでも西へ行く理由は十分だった。


もし予想が当たっているのなら、その途中で日和の弟について何か分かるかもしれない。


「馬を」


「承知いたしました」


使用人が急いで部屋を出ていく。


俺も上着を手に取り、そのあとを追った。


セドリックの思惑も、日和の弟の居場所も、今は後だ。


まずは日和のところへ戻る。


3日も待つつもりはなかった。


次の更新は11:00となります~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。