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弟と間違えて召喚されたので、異世界で小料理屋をはじめます~小料理屋《宵日和》~  作者: HaKo
第6章 異世界でも穏やかには暮らせないようです
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第104話 また迷惑をかけてしまいました


目を開けたとき、最初に見えたのは見覚えのある天井だった。


ぼんやり眺めながら、ここがどこなのかを考える。侯爵邸。以前、私が使わせてもらっていた部屋だ。


「……なんで」


身体を起こそうとした瞬間、頭の奥が重く揺れた。思わず目を閉じていると扉が開き、聞き慣れた声がする。


「日和様?」


「オスカーさん……」


すぐにベッドのそばまで来たオスカーさんは、私の顔を見ると明らかにほっとした。その表情を見た瞬間、胸の奥が重くなる。


心配させた。


「ご気分はいかがですか?」


「少し頭が重いですけど……大丈夫です」


「そのお言葉は、今はあまり信用しないことにいたします」


「……すみません」


オスカーさんは苦笑しながら水を用意してくれた。ゆっくり飲んでいるうちに、昨日のことが戻ってくる。


店で仕込みをしていたこと。


突然、頭の中へ流れ込んできた昔の感覚。


頼られて、期待されて、それに応えなければと思っていたこと。


ちゃんとしなきゃ。


私がやらなきゃ。


迷惑をかけちゃいけない。


――大丈夫じゃ、なかった。


「日和様?」


「……私、倒れたんでしたっけ」


「はい。昨日のお昼頃ですので、丸1日ほどお休みになっておられました」


「1日……?」


そんなに。


オスカーさんによると、ガルドさんが私を受け止め、ミレイユさんを呼んでくれたらしい。そのあとガルドさんが侯爵邸まで知らせに来て、オスカーさんが私をここへ運んだという。


「お店については、お2人が戸締まりまでしてくださったそうですよ」


「そこまで……」


胸がさらに重くなる。


店を放り出して、運んでもらって、戸締まりまでしてもらった。


「お医者さんも?」


「昨夜、診ていただきました。身体に大きな異常はなく、疲れが出た可能性もあるとのことです」


「……すみません」


また、人に迷惑をかけた。


この世界へ来たばかりの頃とは違う。店を持って、自分で暮らして、ちゃんとやれていると思っていたのに。


結局、また誰かに助けてもらっている。


「私、何してるんだろう……」


「日和様」


「ちゃんとできてたと思ってたんです。店も、自分でやっていけてると思ってたのに」


昨日戻ってきた感覚が、また胸の奥に浮かぶ。


ちゃんとしなければ。


頼られる側でいなければ。


できることをやらなければ。


そうしていない自分に、何が残るんだろう。


「……情けないですね」


「日和様。ガルド殿もミレイユ殿も、迷惑だから動かれたのではございませんよ」


「分かってます。でも……」


分かっている。


自分だって、誰かが倒れたら助ける。迷惑だなんて思わない。


でも、自分のことになると同じようには考えられなかった。


「……難しいです」


「では、今すぐ納得なさらなくてもよろしいのではないでしょうか」


顔を上げる。


「ただ、先ほどからの謝罪は私がまとめてお預かりいたします。ガルド殿とミレイユ殿、それから医師の分まで」


「そんなまとめ方あります?」


「ございます。今、決めました」


少しだけ笑った。


でも、胸の重さはまだ消えない。


「……エリアス様は?」


「旦那様は公務で屋敷を離れておられます」


「そうなんですね」


ほっとした直後、そんな自分が嫌になった。


好きだと言ってもらったのに、心配をかけたくないから、いなくてよかったと思ってしまった。


「私が倒れたことは……」


「旦那様にはお伝えしております」


「……え」


心臓が沈む。


「とても心配されておりましたよ」


「……まただ」


「日和様?」


「また、エリアス様にも心配かけてる」


侯爵邸に来たときも、店を始めたときも、何度も助けてもらった。


それなのに、また。


「私、エリアス様にもずっと助けてもらってばかりですね」


「日和様」


「……すみません。今、ちょっとうまく考えられないみたいです」


昨日思い出したことは言えなかった。


自分でもまだ、何が起きているのか分からない。


オスカーさんは何も聞かず、少し待ってから口を開いた。


「では、旦那様がお戻りになられましたら、お食事を作って差し上げてはいかがでしょう」


「……ご飯を?」


「はい。旦那様は日和様のお料理がお好きですから」


何が食べたいかと聞いたときの言葉を思い出す。


――日和が俺に食べさせたいもの。


「お詫びではございませんよ。日和様が作りたいと思われたものを、旦那様に食べていただけばよろしいのです」


「私が作りたいもの……」


温かいものがいい。


公務から疲れて帰ってきたあの人が食べて、少しだけ肩の力を抜けるようなもの。


「……考えておきます」


「ええ。まずはしっかりお休みください」


「はい」


胸の奥はまだ重いし、昨日思い出したものも何ひとつ整理できていない。


それでも、エリアス様が帰ってきたら何を作ろう。


今はそれだけなら、考えてもいい気がした。


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