第16話:魔王軍最強の刺客と、猛毒のスパイス
一方で、わしが呑気に食フェスを満喫している頃、会場の片隅には不穏な影が潜んでいた。
「……あれが、座したまま神聖帝国を落としたという『生ける神』シゲオ。随分と隙だらけの男ね」
物陰からわしを睨みつけていたのは、ゴスロリ風の黒いドレスに身を包んだ少女だった。 魔族の頂点に立つ魔王の娘、ゼノビア。 魔族といっても、彼女には角や獣耳、尻尾といった亜人の要素は一切ない。純人類と見紛うほどの美しい肌と、勝気な赤い瞳を持つ美少女である。
魔界では今、「人間の領域にとんでもないバケモノが現れた」と大パニックに陥っていた。 そこで魔王軍最強の暗殺者である彼女が、この食フェスに単身潜入してきたのである。
「フフフ……どんな魔法の使い手だろうと、胃袋の中は無防備なはず。この魔界の深淵で抽出した『絶死の毒』を一滴でも飲めば、全身から血を噴き出して死ぬわ!」
ゼノビアは、わしが向かっているラーメン屋台の店員を密かに気絶させ、自らが店員のフリをして屋台に潜り込んだ。 そして、わしが注文した待望の「平打ちちぢれ麺の醤油ラーメン」のスープの中に、致死毒をたっぷりと混入させたのだ。
「お待ちどおさま。……さあ、たっぷりと召し上がれ」
ゼノビアは顔を伏せたまま、わしの前にどんぶりを差し出した。
「おおっ! これじゃ、これじゃ! この透き通ったスープに、ちぢれ麺! さっそく頂くとするかのう!」
わしは毒が入っていることなど微塵も疑わず、割り箸を割って豪快に麺をすすった。




