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紡宵のエイカシア(ぼうしょうのエイカシア)  作者: 琴欐


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8/15

瞬きの輝き

 

 透き通った夜空を眺めながら、ルクノウは故郷に想いを馳せる。


 故郷であるカノン村も、夜になると、空を彩る星々が鮮明に映っていた。


 あの頃のように、より綺麗な夜空をと思い、焚き火はすでにほのかな暖かさと共に、灰だけを残していた。



 バチッ。



 見えずに燻っていた火の粉のせいだろうか。


 しかし、それにしては赤すぎる閃光に、ルクノウはほんの一瞬照らされた。



『お久しぶりですね』



 突然声をかけられたルクノウの目には、わずかに驚きの色が見られたが、声の主を知るなり、冷静さを取り戻す。



「お久しぶりです。イレーネさん」



 イレーネ――ファウステルやオルガと同じく、“導き手”の一人である。



 まるで、宙に浮く椅子に腰掛けるよう佇むイレーネは、夜空を身に纏ったような藍色に、輝く星の刺繍が施されている衣装をしていた。


 耳元には八方向に光を放つ星の飾りが揺れている。



『ふふっ。()()()()の仰っていた通り、あまり驚かないのですね』


 ルクノウに笑いかけるその顔は、整った顔立ちに深く影を落とすよう、すっと高く通った鼻筋をしており、褐色の美しい肌が、星の耳飾りと相まってよく映えていた。



「僕自身も不思議で……」


()()()()()なのかもしれませんね』



 ルクノウは、“貴方だから”という言葉を度々耳にするが、その意味するところは、いまだに掴めないままでいた。



「それで……()()()()、でしょうか?」



 星詠の巫女(ほしよみのみこ)――世界を見渡す星からの啓示を賜る存在。



 これは、イレーネの特殊な出自を表す象徴でもあった。


 そして、ルクノウが恐る恐る尋ねる原因でもある。



 ルクノウは以前、イレーネより“星の啓示”を伝えられたことがあったが、その際は――未来への“警告”だった。




『いえ、今日に限っては少し違います』



 ルクノウにも安堵の様子がしばし滲み出る。


『そう肩肘を張らずとも、大丈夫ですよ。ルクノウさんは、“流星群”をご存知ですか?』


「ええ、カノン村でも何度か目にしたことがあります」


『今日はその流星群が見れる日なのですよ』


「……それだけ、ですか?」


 自身の導き手であるイレーネを疑うわけではないが、“そのためだけに姿を見せる訳がない”というルクノウなりの信頼の現れでもあった。



『ふふっ。そのような疑問を持たれるのも、無理ありません。もちろん、私がここに来たのには少しお話をするため……ですが、時間もありませんし、手短に』


 透き通った夜空のような瞳が、ルクノウをまっすぐ捉える。


『年に一度のエアルスの涙(エアルティア)と呼ばれる、最も壮大とされている流星群が、今夜、見られるのです。とある地方では“神の慈愛が降り注ぐ”なんて伝えられていたりするものです』


「それと、イレーネさんに何か関係が?」


『私、というよりは、()()と言った方がよろしいでしょうか。この日、この場所で、エアルスの涙(エアルティア)を観測できるのは、やはり何かの導きなのかもしれませんね』


「……僕にも関係があると?」


『このエアルスの涙(エアルティア)は、ただの流星群ではありません。わずか五百年に一度、“綻び”をこの世界へと運んでくるのです』



 風がルクノウを優しく撫でる。


 ――そこに、イレーネの姿はなかった。



「あ! 見えたよ! 今!」


 

 どこからか声が聞こえる。


 物見客だろうか。



 ドッと歓声が漏れたかと思うと、先だって流れた星に続かんとして、止めどなく流れ始める。



 エアルスの涙(エアルティア)は“壮大”の一言では片付かないほどに、今までルクノウが目にしてきた流星群とはまるで印象の違うものであった。



「これが……“綻び”……」



 星の流れと共に尾を引いた光が、ルクノウには天が裂かれた後のように映る。


 しかし、この美しく流れる星々に、何かの兆しを孕んでいるという側面を残して、今はただ目で追うばかりであった。


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