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紡宵のエイカシア(ぼうしょうのエイカシア)  作者: 琴欐


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7/10

瞬きの輝き



(今日の夜空は、綺麗だなあ)


 ルクノウは透き通った空を眺めながら、故郷に想いを馳せる。


 ルクノウの故郷であるカノン村も、王都から少し離れた土地に位置していたこともあり、夜を彩る星々が鮮明に映っていた。


 より綺麗な夜空をと思い、焚き火はすでに、ほのかな暖かさと共に灰だけを残していた。



 バチッ。



 見えずに燻っていた火の粉のせいだろうか。


 しかし、それにしては眩く赤い閃光に、ルクノウはほんの一瞬照らされた。



『お久しぶりですね』



 突然声をかけられたルクノウの目には、わずかに驚きの色が見られたが、声の主を知るなり、冷静さを取り戻す。



「お久しぶりです。イレーネさん」



 イレーネ――ファウステルやオルガと同じく、“導き手”の一人である。



 まるで、宙に浮く椅子に腰掛けるよう佇むイレーネは、夜空を身に纏ったような藍色で、輝く星の刺繍が施されている衣装をしていた。


 耳元には八方向に光を放つ星の飾りが揺れている。



『ふふっ。()()()()の仰っていた通り、あまり驚かないのですね』


 ルクノウに笑いかけるその顔は、整った顔立ちに深く影を落とすよう、すっと高く通った鼻筋をしており、褐色の美しい肌が、星の耳飾りと相まってよく映えていた。



「僕自身も不思議で……」


()()()()()なのかもしれませんね』



 ルクノウは、“貴方だから”という言葉を度々耳にするが、その意味するところは、いまだに掴めないままでいた。



「それで……()()()()、でしょうか?」



 星詠の巫女(ほしよみのみこ)――星からの啓示を賜る存在。



 これは、イレーネの特殊な出自を表す象徴でもあった。


 そして、ルクノウが恐る恐る尋ねるのも無理はない。


 ルクノウには、以前、イレーネより“星の啓示”を伝えられたことがあった。


 その際は――未来への“警告”だったのだが。




『いえ、今日に限っては少し違います』



 ルクノウにも安堵の様子がしばし滲み出る。


『そう肩肘を張らずとも、大丈夫ですよ。ルクノウさんは、“流星群”をご存知ですか?』


「ええ、星が流れるアレのことですよね?」


 流星群は、カノン村でも観測することができたので、もちろんルクノウも幾度か目にしていた。



『今日はその流星群が見れる日なのですよ』



「……それだけ、ですか?」


 自身の導き手であるイレーネを疑うわけではないが、“そのためだけに姿を見せる訳がない”というルクノウなりの信頼の現れでもあった。



『ふふっ。そのような疑問を持たれるのも、無理ありません。もちろん、私がここに来たのには少しお話をするため……ですが、時間もありませんし、手短に』


 透き通った夜空のような瞳が、ルクノウをまっすぐ捉える。


『年に一度、最も壮大とされている流星群が、今日、見られるのです』


「確か……エアルスの涙(エアルティア)って呼ばれている?」


『そうです、よくご存知ですね。とある地方では“神の慈愛が降り注ぐ”なんて伝えられていたりするものです』


「それと、イレーネさんに何か関係が?」


『私、というよりは、()()と言った方がよろしいでしょうか。この日、この場所で、エアルスの涙(エアルティア)を観測できるのは、やはり何かの導きなのかもしれませんね』


「……僕にも関係があると?」


『このエアルスの涙(エアルティア)は、ただの流星群ではありません。綻びをこの世界へと運んでくるのです』



 風がルクノウを優しく撫でる。



 そこにもうイレーネの姿はなかった。



 「あ! 見えたよ! 今!」


 

 どこからか声が聞こえる。


 物見客だろうか。



 ドッと歓声が漏れたかと思うと、先だって流れた星に続かんとして、止めどなく流れ始める。



 エアルスの涙(エアルティア)は今までルクノウが目にしてきた流星群とはまるで印象の違う、“壮大”の一言では片付かないほどに、ルクノウはただ魅了されていた。


「これが……綻び……」


 星の流れと共に尾を引いた光が、ルクノウには天が裂かれた後のように映る。


 しかし、この美しく流れる星々に、何かの兆しを孕んでいるという側面を残して、今はただ目で追うばかりであった。


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