瞬きの輝き
(今日の夜空は、綺麗だなあ)
ルクノウは透き通った空を眺めながら、故郷に想いを馳せる。
ルクノウの故郷であるカノン村も、王都から少し離れた土地に位置していたこともあり、夜を彩る星々が鮮明に映っていた。
より綺麗な夜空をと思い、焚き火はすでに、ほのかな暖かさと共に灰だけを残していた。
バチッ。
見えずに燻っていた火の粉のせいだろうか。
しかし、それにしては眩く赤い閃光に、ルクノウはほんの一瞬照らされた。
『お久しぶりですね』
突然声をかけられたルクノウの目には、わずかに驚きの色が見られたが、声の主を知るなり、冷静さを取り戻す。
「お久しぶりです。イレーネさん」
イレーネ――ファウステルやオルガと同じく、“導き手”の一人である。
まるで、宙に浮く椅子に腰掛けるよう佇むイレーネは、夜空を身に纏ったような藍色で、輝く星の刺繍が施されている衣装をしていた。
耳元には八方向に光を放つ星の飾りが揺れている。
『ふふっ。オルガ様の仰っていた通り、あまり驚かないのですね』
ルクノウに笑いかけるその顔は、整った顔立ちに深く影を落とすよう、すっと高く通った鼻筋をしており、褐色の美しい肌が、星の耳飾りと相まってよく映えていた。
「僕自身も不思議で……」
『貴方だからなのかもしれませんね』
ルクノウは、“貴方だから”という言葉を度々耳にするが、その意味するところは、いまだに掴めないままでいた。
「それで……星の啓示、でしょうか?」
星詠の巫女――星からの啓示を賜る存在。
これは、イレーネの特殊な出自を表す象徴でもあった。
そして、ルクノウが恐る恐る尋ねるのも無理はない。
ルクノウには、以前、イレーネより“星の啓示”を伝えられたことがあった。
その際は――未来への“警告”だったのだが。
『いえ、今日に限っては少し違います』
ルクノウにも安堵の様子がしばし滲み出る。
『そう肩肘を張らずとも、大丈夫ですよ。ルクノウさんは、“流星群”をご存知ですか?』
「ええ、星が流れるアレのことですよね?」
流星群は、カノン村でも観測することができたので、もちろんルクノウも幾度か目にしていた。
『今日はその流星群が見れる日なのですよ』
「……それだけ、ですか?」
自身の導き手であるイレーネを疑うわけではないが、“そのためだけに姿を見せる訳がない”というルクノウなりの信頼の現れでもあった。
『ふふっ。そのような疑問を持たれるのも、無理ありません。もちろん、私がここに来たのには少しお話をするため……ですが、時間もありませんし、手短に』
透き通った夜空のような瞳が、ルクノウをまっすぐ捉える。
『年に一度、最も壮大とされている流星群が、今日、見られるのです』
「確か……エアルスの涙って呼ばれている?」
『そうです、よくご存知ですね。とある地方では“神の慈愛が降り注ぐ”なんて伝えられていたりするものです』
「それと、イレーネさんに何か関係が?」
『私、というよりは、私達と言った方がよろしいでしょうか。この日、この場所で、エアルスの涙を観測できるのは、やはり何かの導きなのかもしれませんね』
「……僕にも関係があると?」
『このエアルスの涙は、ただの流星群ではありません。綻びをこの世界へと運んでくるのです』
風がルクノウを優しく撫でる。
そこにもうイレーネの姿はなかった。
「あ! 見えたよ! 今!」
どこからか声が聞こえる。
物見客だろうか。
ドッと歓声が漏れたかと思うと、先だって流れた星に続かんとして、止めどなく流れ始める。
エアルスの涙は今までルクノウが目にしてきた流星群とはまるで印象の違う、“壮大”の一言では片付かないほどに、ルクノウはただ魅了されていた。
「これが……綻び……」
星の流れと共に尾を引いた光が、ルクノウには天が裂かれた後のように映る。
しかし、この美しく流れる星々に、何かの兆しを孕んでいるという側面を残して、今はただ目で追うばかりであった。




