浮き足立つ少女
どん。
ほんの軽い衝撃が、ルクノウを突いた。
「いたたたた」
額を優しく撫でながら、労わる様子の小さな少女と、ルクノウの目が合う。
「あ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
突然の出来事に、やっと理解の追いついたルクノウは、少女の無事を確認する。
ルクノウは少女と少し言葉を交わすと、わかったことがあった。
「イクスがね、こっちに行っちゃったから、追いかけてきたの」
どうやら少女は、迷子らしい。
「イクス?」
「うん、イクス。エアの弟なの。双子ってものらしいけど、難しくてわかんない」
「そうか……そうだよね。それで、イクスくんは?」
「見つかんないの。降りるところを間違えちゃったのかな」
「降りるところ?」
「途中までは一緒だったの」
エアとの会話はどこかぎこちなく、付かず離れずを繰り返しているようだった。
しかし、ルクノウは迷子の少女を1人にするわけにもいかず、しばらく連れ歩くことにした。
「エアはイクスくんと二人だけでここに?」
「お母様と、みんなと一緒にいたよ」
(エアのお母さんが近くにいるなら、あまりここを動かない方がいいかもしれないな)
「お母さんが探してるだろうから、あまり遠くへは行かず、この辺りで休んでいようか」
「はーい」
ちょうど日陰になる場所があったので、二人とも腰を下ろす。
「エアたちは何をしにこのあたりに来たの?」
(見慣れない服装だから、離れた場所から来てるはずだけど)
「エアたちはお家を探しに来たの」
ルクノウの予想通り、エアは離れた土地から来ているようだった。
「いいお家はあった?」
「うーん。ビミョーかも」
「ははは、そうなんだね」
ルクノウは今、商業都市から少し外れた山道にいる。
(あそこから迷子になったと考えると、少し厄介かもな……)
「ルクノウ、どうしたの?」
考え事をしていたルクノウの顔を、エアは不思議そうに見つめる。
「ごめんごめん。ちょっと考え事をしていたんだ」
「難しい話は、エア嫌い」
「僕も苦手だよ」
エアの服を風が靡かせ、ほんの少し、光がきらめく。
「その服、初めて見たけど、とても綺麗だね」
「服? あー、みんなとお揃いなの」
「いいねお揃い。じゃあ、イクスくんもお母さんも、一目でわかるかな」
「探しましたよ、エア」
「あ!お母様!」
エアが駆け寄った先には、エアと同じ服を着た女性が立っていた。
「勝手に降りちゃいけないんだぞ」
女性の後ろに身を隠すように、一人の少年がこちらの様子を伺っていた。
「イクスが走っていくから追いかけただけなのに……」
「こらこら、どちらも急に離れてはいけませんよ」
「はい……」
「ごめんなさい……」
二人のしょんぼりとした様子は、傍目から見てもそっくりだった。
「エアを見てくれててありがとうございました。あなたがルクノウさんですね。エアとイクスとは、またご縁があればそのうち……」
「いえ、無事に見つかってよかったです。どうにも放っておかなくて……」
ここでルクノウは、気づけていなかった違和感を覚える。
名前をまだ伝えていないのだ。
もちろん、エアにも。
「……まったく、あわてんぼうさんなんですから。ほら、ご挨拶して」
「またね、ルクノウ」
「え……うん。またね」
ルクノウに不思議と恐怖心はなく、街とは反対の方へと歩く三人を送り出していた。
ルクノウは何気なく、しばらく見届けていると、本当にそうだったのか、あるいはただ遠くて見えなくなっただけなのか。
三人は、ふっと姿を消した気がした。




