結びつく糸
「おい、旅の坊主!」
「はい……」
道ゆくルクノウに声をかけたのは、小さな酒樽を片手に、昼間から大木の幹に寄りかかって酔い潰れている、少しくたびれた身なりをした年老いた男だった。
「お前にはこれが何に見える?」
男が天に人差し指を立てて、問いかける。
ルクノウがその指の先に視線をやると、それは大きな木――ではなく、大きなキノコが生えていた。
「え……キノコ……ですかね?」
「やっぱり、そうだよな。酔いのせいではないよな?」
ルクノウ自身も、初めは大木と思っていたこのキノコのことを、幻覚ではないのかと不思議な気持ちに包まれていた。
「どうにも寝心地の良さそうな大木があったから、俺は近づいて寄りかかってみたんだ。ところがよ、様子がおかしいから天を仰いでよく見ると、どうだ? キノコなんだよ」
「……キノコ、ですね」
「このキノコが一番デカい生き物なんじゃねえかと思ってよ」
(唐突だなあ……)
「いやな? 海の生物や、誰しもがガキの頃に本で見た古の生物にも引けを取らない大きさだと思わないか?」
「言われてみれば、なかなかに大きいですが……これは生き物と言えるのでしょうか?」
「何を言っているんだ、動物だけが生き物だなんて思うなよ? こいつも、立派な生き物だろ」
男が寄りかかっているキノコの柄を、陽気に平手で叩いている。
「俺は長年生きてきて、世界を知った気でいたが、まだまだ広く深いってもんだな!」
「そうですけど……」
「若えのに、ロマンが足りねえな」
こうして話しているうちにも、男はどんどんと酒を口へ運ぶ。
男は酔いのせいか、どこか動きがぎこちない。
そして、男は次から次へと、ルクノウへ関係のあることないことを投げかける。
「お前の旅の目的は何だ?」
「旅の目的……」
「目的はなんでもいいが、旅は人生の縮図とはよく言ったものだな。結局のところ、出会いと別れの連続さ」
「確かに、そうですね」
広がる空を仰ぎながら、ルクノウが旅の中で得た人との繋がりを思い出す。
「運命の糸だなんて言ったりもするが、一本で済むなら世話ねえよな。できる限り……別れたくはねえもんだ」
「はい……出会いの多い人生にしたいものです」
「ああ、本当の別れは……今である必要はないと思わんか?」
「どういうことでしょうか?」
「こいつのせいか、足が痺れちまって動けねえ。もうしばらくここで休むことにするよ。居心地も案外悪くねえからな」
「何か、お手伝いしましょうか? 水を汲んでくるとか……」
「いやいい。俺の家はここから近いんだ。少し休んだら家に帰るとするよ。お前は旅を続けるといい。同じ世界にいるんだ、そのうち会えるだろう」
「そうおっしゃられるなら……僕はそろそろ」
「ああ、いい旅をな。くれぐれも、ドジを踏むんじゃねえぞ。俺みたいになっちまうからな」
「……僕はまだお酒が飲めないので、ご心配なく」
ルクノウの言葉に、男は豪快に笑う。
「それもそうだな。ほら、さっさと行った行った」
「それでは」
軽く会釈をして、ルクノウは歩き出す。
男は、ルクノウの後ろ姿を見つめながら、背もたれに溶け込むように、身を委ねるのであった。




