第三話 出会い
第三話 出会い
死中に活を求めた光秀と、敵の勢いを見て一時退いた秀吉。この一戦がもたらした結果の差は、余りにも大きかった。
「このまま余勢を駆って突き進め!」
光秀の声に応じ、明智軍の将兵が怒涛のごとく城門へ押し寄せる。その凄まじい気迫を、物見櫓から若林長門守が凝視していた。
(流石は光秀殿、戦上手よ。……願わくば、あの男と正々堂々、刀を交えたかった!)
武人としての血を滾らせ、長門守が迎え撃とうとした、その時であった。
乾いた一発の銃声が、城内に響き渡った。
「ぐっ……!」
不意の裏切り。味方であるはずの堀江景忠らの謀反により、長門守は左肩を深く撃ち抜かれた。
「光秀様! 敵城内にて謀反にござる! 若林長門守、狙撃されましたぞ!」
「おお! やったか!」
だが、長門守は並の武夫ではなかった。鮮血を噴き出しながらも、迫り来る明智の兵を蹴散らし、崩れゆく城から間一髪で落ち延びていく。
主を失った海城は、まもなく光秀の手によって完全に制圧された。
「よし! 我らが勝利じゃ!」
光秀の勝鬨が、日本海の荒波に吸い込まれていく。
「くっそー! 先を越されたわ!」
後方で秀吉が地団太を踏むのを尻目に、光秀の隊は残党を掃討すべく城内の隅々まで改め始めた。
冷え切った蔵の奥。薄暗い影の中に、光秀は小さな動体を見つけた。
煤だらけの顔、ボロ布のような衣。一見して性別すら分からぬ、五歳ほどの幼子であった。
「……玉様より、少し年下に見えますな」
利三がその顔を覗き込み、娘であることを改める。
「逃げるのに邪魔になり、捨て置かれたか。哀れな……」
光秀がその場に跪き、そっと手を差し伸べた。冷え切った蔵の中で、娘の肩は小刻みに震えている。
「如何いたしますか?」
秀満もまた、戦火に取り残された孤児に同情の視線を向けた。
光秀はしばし沈黙した後、決然と言った。
「よし……玉の付き人として育てよう」
「それは良きお考え。玉様は少々ご気性が荒い……いや、失礼。お転婆なところがございますゆえ、遊び相手にはちょうど良いかもしれませぬ」
秀満の言葉に、光秀もわずかに口元を緩めた。
「名はなんと申す?」
光秀が優しく問いかけるが、娘は恐怖のあまり声が出ない。
「……ならば、その方が着ている着物。この桔梗の花は、我らが旗印。今日から名を『キキョウ』と名乗るがよい。この戦が終われば、安心して暮らせる屋敷へ連れて参る。よいか?」
震えるキキョウは、光秀の瞳の中に宿る不思議な静謐さに打たれ、ただ小さく頷くことしかできなかった。
これが、後に「主君の介錯人」となる少女と、明智光秀との運命の邂逅であった。




