第11話 ヒデブ
〜某時刻、魔術教会本部〜
魔術教会の作戦室では、執行部隊隊長の証である金色の獅子が刺繍された白いローブをはためかせ、端正な顔付きの青年、サン・ゴルドが狭い室内をうろうろと歩いていた。
室内に端には魔石が置いてあり、通信手がじっと耳をすまして誰かからの連絡を待っている。
ゴルドは通信手に苛々を隠さず話す。
「ええい、ダンクを封印に行かせた魔術師からの連絡はまだか!?」
「只今通信魔術を使っていますが…まだ」
「く……ダンクめ、何故今、封印を破いて外に出る!
貴様はもはや包帯の端から端まで怪物に成り果てた存在なんだぞ!
十年前は大人しく封印された癖に何故今……」
「!
ゴルド様、魔術師ヒデブ様から連絡が入りました!」 「繋げ!」
『ゴルド様……』
通信手が魔石に呪文をかけると、魔石から声が聞こえてくる。
それは先日宿屋を襲った魔術師の声だ。
ゴルドは魔石に向かって怒声に似た声で叫ぶ。
「ヒデブ!貴様、今まで何をしていた!」
『すいません、昨日ノンビーリ村の宿屋でダンクを捕まえようとしましたが、奴めとんでもない術を私にかけてきました』
「何!?どんな術をかけられたのだ!?」
『私は今、砂浜にいます。
近くには仲間がいます(ぶーぶー)私はこれから彼等と共に青春を楽しんで行きたいと思います!』
「ヒデブ?
お前、何を言って…?」
『ヤッホオオオウ!!
俺達の青春はこれからだ!絶対モテモテになってやるんだあああ!』
ブツッという音が聞こえ、もうヒデブの声は聞こえなくなる。ゴルドは思わず叫んだ。
「ヒデブ……!?
どうしたヒデブ!応答しろヒデブ!ヒデブウウ!」
「駄目です、繋がりません!」
通信手の冷静な声にゴルドは下唇を噛みながらも魔石へのを会話を諦める。
そこに、第三者の声が聞こえてくる。
「サンよ、ヒデブがやられたようだな」
「ムーン兄さん…」
サンが振り返ると、そこには封印部隊長の証である金色の龍の刺繍が施されたローブを着こんだ男がいつの間にか作戦室に入っていた。
この男の名はムーン・ゴルド。サン・ゴルドの兄でもある。
「ふむ、ダンクは十年間魔力供給をしなかったから今なら倒せると踏み、一人だけで向かわせたのが間違いだったようだ。
ヒデブの奴、何らかの幻覚魔法を受けたようだな」
「もうしわけありません……」
「何、奴の恐ろしさは魔力が切れた時にある。
まだ僅かでも魔力を費やす事ができたと思えば安いものだ」
「……はい……」
優しそうなムーンの言葉だが、目はまるで氷のように冷たい。
サンはそれを直視できず、目線を僅かに逸らす。
「次は俺達の部隊が行こう、30人がかりで行けば奴を僅かな魔力を秘めさせたまま封印する事が可能だ。
…サン、お前の部隊は動かなくていいぞ。
執行と封印ではやり方が違う。邪魔されたくないしな」
ムーンはそれだけ言うと、作戦室から離れる。
残ったサンは思い切り机を叩き、資料が数枚宙を舞う。
そして感情を押し殺した声でこう言った。
「何故、何故今出てきたんだ…怪物ダンクよ…」




