第72話:浮気女の末路
俺が学校に着いた頃には、すでに火種は激しい炎となって燃えていた。
「菊池さんが浮気してたなんて……」
「ほんと最低よね。今すぐ死んじゃえばいいのに」
付き合っていた頃の写真と、『俺は浮気された』の一言。
それだけで十二分の効果を発揮した。
もちろん、以前の俺では波紋を残すことすらできなかっただろう。
しかし今や龍生以上の実力と人望がある。
自殺未遂、過労による救急搬送──思い返せば長かった道のりだ。
それでも龍生は刑務所で(恐らく)罪を償っているし、まだ登校していない冬美も今から地獄を味わうことになる。
「さて、俺は特等席で見ていよう」
教室の窓から校門を眺める。
間も無くして、冬美の姿が見えた。
今から起きることには気づくことなく、友人と笑い合っていた。
パチン──校舎に甲高い音が響いた。
一人の女子生徒が、冬美の頬にビンタしたのだ。
冬美はわけがわからないといった表情で、すぐにその場に蹲る。
その様子を見ても、誰も手を差し伸べることはなかった──それどころか、わざと足をぶつける生徒もいた。
──おいおい、これはマズくないか?
この時間帯は教師は朝の会議で誰もいない。
となると、冬美の味方はどこにもいない。
「ああ──クソッ!」
わけもわからず、俺は足を動かしていた。
「あ、ひーくん……昨日の投稿──」
「妃菜もついてきて」
偶然通りかかった妃菜の手を引き、落ちるように階段を駆け降りた。
上靴のまま外に飛び出して冬美の元に向かうが、俺がついた時には、冬美は死んだ目をしていた。
無言のまま、涙だけを流していた。
「嘘つき」
「…………」
「嘘つき嘘つき。あの写真は拡散しないって約束だったじゃないッ」
「俺が投稿したのはアレじゃない」
「そんなのどうでもいい。アンタのせいで……龍生くんはいなくなっちゃったし、私の人生は終わった……大嫌い、死んで」
「ああ、そうか。浮気女には俺が嘘をついていないってわからないか」
そう言って俺は自分の投稿を見せる。
「ああ……それは……私たちの、写真……」
「そうだよ。俺にとっては意外と楽しかった、思い出の写真だ」
「私、が……っ、私が龍生と関わらなければ……。うっ、うう、ひぐっ……、うああああ──」
刹那、堪えていた声が冬美の喉をすり抜けて、朝の校門に響く。
誰も冬美が泣き出した理由はわからなかった。
ただ、縋り付くように俺のスマホを取り上げると、抱き抱えながら蹲る。
一人の女子が「あとは私たちでどうにかする」と言って、スマホを取り返してくれた。
彼女がいきなり泣き出した意味はわからない。
そして、これからどんな仕打ちを受けるのかは、俺が知る由もなかった。
今は隣に妃菜がいてくれる──それだけで幸せだ。
俺が妃菜の手を握る力を強めると、彼女は少しだけ頬を赤ながらも応えてくれた。




