第69話:最終決戦1
事件から三日が経った。
昨日、逃走中の暴力団が全員捕まったことが、全国放送のニュースにて明かされた。
龍生が捕まるのも時間の問題だ。
サッカー部のグループチャットに一通のメッセージを送っておく。
『今日、少しだけコートを占領させて欲しい』
それだけしか送ってないのに、部活仲間からは『頑張れよ』『お前ならやれる』と熱いメッセージが送られてきた。
顧問も『近々大会がないから好きにしろ』と了承してくれる。
遠かったはずの計画が、いつの間にか目の前にあり、胸がキュッと締め付けられるように痛む。
気が付けばいつも家を出る時間になっていたので、慌てて身支度をした。
「ひーくんおはよ」
同じタイミングで妃菜も出てきたので、一緒に登校することにした。
ちなみに学校が襲撃された日、妃菜の父親が迎えに来てくれた。
その時、目の前に親がいるのに妃菜が抱き着いてきたせいで、彼から鋭い眼光を向けられた。
胃の周りが痛くなったのはここだけの話。
「妃菜、今日の放課後暇か?」
「暇だけど……どうして?」
「龍生とサッカーで戦うことにした」
「え! それって大丈夫なの?」
「俺から提案したんだ」
隣を歩いていた妃菜が、ギュッと手を包み込んでくる。
「私、絶対見に行くよ。約束!」
「頼むよ」
返事はたったそれだけ。
妃菜が見に来てくれる──その事実が嬉しくて頭が真っ白になった。
◇
「この瞬間をずっと待ちわびていた」
「俺もだよ」
「そうか……"盤上の支配者"サマも……」
もちろん、龍生とのタイマンは難なく終わると思っている。
俺が待ちわびていたのは、クズ男の龍生が地獄に堕ちることだ。
コートは40×20メートル、審判はサッカー部から名乗り出た人がしてくれることになった。
審判の笛の音で龍生がボールを蹴る。
コイントスで決まったが、アイツのことだ。イカサマをしていてもおかしくない。
コートを囲うようにして、大勢の人が俺たちの試合を見ていた。
その中に妃菜を見つけ、まるでドーピングでもしたかと錯覚するくらい力が湧いてきた。
「平野ォ! お前の本気を見せろや!」
果たして、彼に俺を挑発する余裕があるのか?
答えはノーだ。
俺は少し先をドリブルして走る龍生の背を追った。
龍生の動きはまだまだぎこちない。
中学生の頃、こんなヤツに夏を終わらせられたのかと、腸が煮えくり返りそうだ。
「下手くそが」
俺が肩をぶつけるだけで、龍生の体はグラりと揺れ、リズム良く動いていたはずの足がバランスを取るようにして乱れた。
──今だ。
隙をついて俺は龍生からボールを奪い取る。
180度回転し、後はガラ空きのゴールにボールを蹴り入れるだけ。
余裕すぎる──そう思った矢先、視界が歪む。
「平野ォ……こんな程度か?」
胸に強い衝撃が走る。
反則だ。それに何だ、このパワーは。
手で押されただけでは、俺が体勢を崩すわけがない。
審判は試合を止めない。
──そういうことか。
「くッ、ククッ、ハハハハッ! イカサマも何でも有りってことかよ」
龍生は呆気にとられる俺を置いて、勢いよくシュートをキメた。
1対0。
まだまだ試合は始まったばかりだ。
「いいぜ、やってやるよ。イカサマをしても俺に勝てないことを、教えてやる」
ゾクゾクとした高揚を感じながら、俺は立ち上がった──イカサマをして手に入れた得点を心から喜ぶ龍生を睨んで。




