第68話:クズ男とタイマン2
「じゃあまずは──」
冬美を睨むと、「ヒィッ」と言って肩が跳ね上がるのが見えた。
俺は躊躇なく肩を掴んだ。
「なんで嘘ついた?」
「はへぇ? 嘘ってどういうコト……」
「俺が気づかないとでも?」
指先から伝わる振動が、俺の中の良くない感情を揺さぶる。
彼女が怯える様子を心の底から愉しんでいた。
「さっき言ったよな──『私は本当のことを言ったの』って。どうしてあんな嘘をついた?」
悲しかった。
たとえ愛がなかったとしても、何の躊躇もなく嘘をつける相手だということが。
「は、話すから──だからお願いッ。私を傷つけないで!」
「それは答えによる」
「だったら答えない……」
手は震えているのに、芯のある目をしていた。
純愛……か。
俺は手を伸ばしても、偽り愛しか貰えなかったのに、龍生は──。
「わかった。今は傷つけない」
「ありがと。だったら話すわ」
どうやら俺が嘘をついている可能性は危惧していないらしい。
今更冬美が『好き』や『愛している』と思っていないが、信頼されるのは悪い気がしなかった。
浮気が発覚したときから思っているが、冬美のように欺いて、その裏で嘲笑うなんてことはしたくない。
「私ね──」
「ま、待て……それ以上言ったら別れるぞッ」
「大丈夫。私、龍生くんとの幸せよりも、自分の安全の方が大事だもの」
ゾクリ、と背筋を冷たい何かが撫でるような気がした。
──なんて恐ろしいこと言い出すんだ。
冬美の胸の内が少しも見えない。
「龍生くん、私のスマホを定期的に確認するの。バレないように工夫したんだけどね、バレちゃったんだよね」
「それで?」
「響を貶めるために協力しろって言ってきた」
「…………」
二人とも救いようのないクズだってことがわかった。
元からそのつもりだが、龍生はここで退場されてしまったら困る。
「龍生……警察に身柄を渡すのはやめておいてやるよ」
「は、はァ?」
「信じられないって顔だな」
「当たり前だろ。俺じゃお前に喧嘩で勝てないからな」
龍生が負けを認めるなんて珍しい。
何か裏でもありそうだが、敢えて目を逸らしておいた。
「一つだけ──警察に渡さない代わりに頼みがある」
「頼み?」
「ああ、俺にとっても、お前──龍生にとっても大事なことだ」
名前を口に出されると、龍生は僅かに眉を揺らした。
「聞いてから考える」
「龍生、俺とサッカーでタイマンしよう」
「わかった。今からか?」
「学校が今どんな状況かわかってるのか?この件が収まってからだ。早くとも明後日以降だろ」
「なら明日しよう」
「いや、だから学校中にお前の手下がいるから……」
龍生はスマホを操作し始めたかと思うと、すぐに着信音が鳴った。
スマホの奥から聞こえる声は、殺意の籠った低いものだ。
『仲間が何人か捕まった』
「目的は達成した。もう帰ってもらって構わないよ」
『報酬は?』
「もちろん。一週間以内に振り込んでおくよ」
『わかった』
そこで切れてしまう。
心のどこかで疑っていた。
龍生がこんなにも多くの人を動かせるわけがない、と。
──しかも暴力団だ。
信じる方が難しいに決まっている。
しかし、バイクの音とパトカーのサイレン音が小さくなっていくのを聞いて、ようやく実感が湧いてきた。
「これで、いいか?」
「ああ、十分だ。でも、明日は間違いなく休校だろうな」
「はッ!だったら、自主練でもしておけ。俺に負けて泣く準備もな」
龍生はカッカッカと笑いながら部屋を去っていった。
俺は色んな感情が混ざった笑みを浮かべると、冬美は顔を引き攣らせながら、龍生の後を追いかけるようにして消えた。
一人残された俺は、全てが計画通りなことに、笑いが込み上げてきた。




