第67話:クズ男とタイマン1
「──って言うわけで、最初から全て知ってた」
簡単に説明した。
龍生と冬美のことは伏せて──なので、俺から言えるのは、校長を通じて警察に通報していたことくらいだったが。
特定の教師しかこのことを知らなかったのは、変にソワソワしていたら生徒も不安になるから。
──という名目で、本当は龍生の人生がここで終わると困るからだ。
「にわかには信じがたいが、実際、ヤツらと警察が来た。これ以上疑っていても時間を浪費するだけ、か……」
担任は険しい表情で黙り込む。
面倒事を嫌う性格だ。
どのようにして情報を得たかを、聞いてくることはなかった。
ホッと、胸を撫で下ろしていると、落ち着きを取り戻した妃菜が耳元で呟く。
「いいの?」
「龍生のことはまだ言わない」
元からそのつもりだし、冬美とも約束した。
俺はあの浮気女とは違って約束は守る。
腐ってもアイツらのようなクズに成り下がるつもりはない。
ポケットの中のスマホが震える。
一応授業中とはいえ、他にも使っている人がいるのを確認してから画面を開く。
冬美からだった。
「妃菜……ごめん」
「え、それってどういう──」
教室の扉を開けられないように、積み上げられた机などを崩して弾けるように飛び出した。
後ろから担任の怒声と、妃菜が「待って私もついてく」と暴れる声が聞こえる。
妃菜は出ていけないように取り押さえられたようだ。
「ありがとう」
意図せずとも、そんな言葉が口からこぼれ落ちる。
妃菜には傷ついてほしくない。
彼女の身に何かよからぬ事が起きてしまったら、俺は怒りでおかしくなってしまうだろう。
「──」
胸の中で懐かしい感覚が蘇る。
この感覚──感情の名前は知っている。
「恋」
もう後ろは見ない。
無事に帰れたら、その時は告白しよう。
『好きです。付き合ってください』
って。
床を蹴る足に力が湧き出てくる。
龍生の居場所は知っている。
冬美が教えてくれたので確かなはず。
遠くから聞こえてくるパトカーのサイレン音と、犯罪者共の怒声。俺が見つかったら作戦が全てが台無しになる。
誰もいない購買の隣を走り抜け、俺は化学準備室の扉を開けた。
普段なら開いていない──だが、今回は違う。中には龍生がいるから。
「龍生ッ……って、いない?」
鍵は開いていたが、中には誰もいない。
改めて冬美からのメッセージを確認するが、確かに『化学準備室にいる』と書かれている。
騙された──?
浮気の証拠が俺の手にあるのに?
不測の事態に呼吸が少しだけ早くなる。深呼吸しようとするが、焦りで、ヒュッ、と間抜けな音が響くだけ。
刹那、ビュンッと、風を切る音が響いた。
反射的に体を前に倒すと、頭上を金属バットが通り過ぎていく。
「チッ……何で気づくんだよ」
龍生の苛立った声が聞こえたかと思えば、金属バットは扉を吹き飛ばす破壊音が鳴り響く。
呆気なく、扉は化学準備室の薬品棚に突っ込む。
バットを振った反動で無防備な腹に、一発蹴りを入れる。
「むぐッ!」
「冬美ィ!」
倒れた龍生の脇腹にもう一発蹴りを入れ、少し離れたところで観客のように呆然と見ていた女の名前を呼ぶ。
「ヒィ」と情けない声を上げて逃げようとするが、すぐに腕を掴んで、叫ばないように口を塞いだ。
くぐもった声が漏れるたび、生暖かい吐息が手のひらに触れる。
「冬美……どうして俺を騙した?」
手を離すと、息苦しそうに咳き込んで、すぐに言い訳を探し始める。
「私は本当のことを響に伝えたの……でも、龍生くんにバレてしまって……」
嘘だ。
視線が泳いでいるし、やけに瞬きが多い。
「そうか……」
ひとまず人目につかないところに隠れよう。
近くの空き教室に龍生を引きずりって入る。
冬美は爪を噛んで、今にも発狂しそうだ。
龍生は相手にならない。
今は冬美への尋問を始めよう。
どんな答えが返ってこようが、冬美に平和な日常が戻ってくることはないだろう。
投稿できなくてすいません!
検定勉強をしていました……。
今週末から来週にかけて総合テストがあるので、もう少し投稿ができないかもしれません。
すいません!




