第64話:虐められる龍生【最終章開幕】
学校の廊下を歩いていると、周りから羨望の眼差しを向けられる。
それは、隣を妃菜が歩いているからか、それとも──
「平野くんだよね!? 前の大会、かっこよかったよ!」
「それな! 龍生くんなんかよりも、ずっとよかったよね!」
「ところで──今彼女いたりする?」
彼女?
今はいない。
冬美に浮気されてからは、俺は恋愛とは距離をおいている。
というか、俺と関わりのある女子が妃菜くらいしかいなかった。
「いないけど……」
「じゃあさじゃあさ、私たちと連絡先交換しない?」
連絡先か。
二人には悪意がなさそうだからいいか。と、俺がスマホを出すと、隣で黙っていた妃菜が口を開く。
「二人とも虫が良すぎない? 少し前までは龍生の隣にいたよね」
「なにこの女。もう行こ」
「マジ最悪。空気読めよ」
妃菜に止められると、口々に愚痴を漏らしながら去っていく。
こっそり隣に視線を向けると、頬を膨らませていた。
なんで拗ねているんだよ。俺、何か悪いことしたかな……
時間が経てば元通りになるだろう。
俺は以前みたいな最悪な対応をされなくなったことで、頭の中がいっぱいいっぱいだった。
俺に向いていたヘイトは、今では龍生に向けられている。
「なんで俺を加害者にしたんだ」
「すべてお前のせいなんだからな」
俺を貶めていた奴らは制裁を受けた。
その怒りの矛先は元凶である龍生に集まる。
元からスカした態度で、他人からウザがられていたこともあり、立場が逆転するまであまり時間がかからなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
龍生には正気が全くない。
今すぐにでも、ひゅっ、と消えてしまいそうだ。
彼にどんな結末が訪れようとも、俺には関係ない。
トドメは俺が刺すから、他の奴らで散々痛ぶっておいてくれると助かる。
最高の気分のまま、俺は教室にある自分の席に座った。
◇
異変を感じたのは、つい二日前。
俺を追放したサッカー部が試合に負けた日だ。
全国ベスト16。
初めて聞いた時は思わず腑抜けた声を漏らした。
それくらい、その結果はよかった。
大会会場が学校から近いこともあり、俺目的で多くの女子生徒が集まったらしい。
もっとも、追放された俺はその場にはいないのだが。
『龍生のいない試合に意味はないわ』
『そうね。帰りましょ』
などと話している姿が容易に思い浮かぶ。
だが、見にきていた人全員を魅了しやがったのだ──平野響は。
俺ですらできないことだ。
後から風の噂で聞いたのだが、相手チームの保護者ですら、響のプレーに目を奪われていたらしい。
せめて自分の子供を応援してやれよ。
負けていても、響だけは諦めずに立ち向かっていたそうだ。
誰かが撮影した試合動画は、瞬く間に拡散され、響の周りには人が集まるようになった。
半年前には、俺と一緒に虐めていた奴らは、悪行が教師にバレてしまい、俺と一緒に一ヶ月の奉仕作業を命じられた。
俺の下で下でヘコヘコしていたはずが、気がついたら俺がヘコヘコする側になっていた。
父親は刑務所で自分の悪事を反省しているし、母親は知らない男と出ていった。
残されたのは、使用人と身に余る額のお金。もちろん、父親のものだが。
「失礼します……」
今までは父親の書斎に入る時は、こんなことは言わなかった。
虐めの影響で、引きの姿勢が身についてきたところだ。
少しも嬉しくない。
とにかく、俺はお金が必要だ。
以前から関わりのある彼らなら、安く引き受けてくれるはずだ。
俺は最後の希望を胸に、とある男に電話をかけた。




