第58話:龍生復活&龍生父、取り調べを受ける
退院日、スマホが鬱陶しいほどに通知を鳴らしていた。
サッカー部のグループチャットだ。
まったく、俺が苦しんでいるというのに、病人も敬えないクズ野郎しかいねぇのか?
しかし、スマホを開くと、サッカー部員に対する怒りは消え失せ、代わりに不安が込み上げてくる。
「嘘……だ、ろ…………」
思わず、俺の口から掠れた声がこぼれ落ちた。
グループチャットでは、『日向議員、違法薬物所持の疑い』と書かれたネットニュースの画像に加え、部員たちがその真偽について勝手に討論していた。
『日向議員って龍生の親父さんだよな?』
『違法薬物って何したの』
『そんなことより、龍生はどうなんだよ』
『知らねぇよ。最近学校にも来てないようだけど、アイツも捕まってんじゃねぇの?』
『ふざけんなよ。秋の新人戦まで、もう2ヶ月をきってんだぞ?面倒事に巻き込むんじゃねぇよ』
彼らの間では、俺も同罪で捕まっていることになっているらしい。
俺抜きでは一回戦も勝てないクセに、何言ってんだよ。
平野響といい連携を取ってた飯塚零もダメだ。俺の言うことを聞かないし、プレーはそこそこだな。
次の大会、アイツらに出番は回ってこない。
一年生のヤツらも、先輩も、全員俺のプレーを指をくわえて見てろよ。
俺は未来のプロサッカー選手なんだ。
なぜか、笑みが止まらなくなった。
親父のネットニュースのことなど、少しも覚えていなかった。
◇
学校に着くと、なぜか騒がしかった。
ずっと休んでいた龍生が、ようやく登校してきたらしい。
廊下にいる憎たらしい顔を睨みながら、俺は様子を伺う。
女子たちは黄色い声を上げ、逆に男子たちは悔しそうに顔を顰めていた。
日向議員の一件は既に風化しており、龍生を心配する声があちらこちらから聞こえてくる。
「龍生くん、おかえり……」
「よかった……。龍生くん、捕まっちゃったと思ってた……」
「そんなわけねぇよ。ちょっと間入院してただけだよ」
「入院!? それは……大丈夫なの?」
「平気平気。すぐに処置をして貰えたから、なんとか後遺症も残らなかった」
その声に、安堵するため息が聞こえる。
「チッ──」
舌打ちが、俺にだけ聞こえた。
サッカー部の……先輩? 俺が中学の頃に、同じチームだったから、辛うじて覚えている。
結構強い選手だったけど、今では龍生の方が強いと、風の噂で聞いたことがある。
今までは龍生の味方ばかりに意識が向いて、絶望的な気持ちになっていたが、視野を広げてみると、案外そうでもない人もいるらしい。
(これは、使える)
龍生に復讐する上で、どうしても俺と妃菜だけではできないことがある。
だが、彼らを使えば、最高のシナリオだって書けるかもしれない。
◇
「だからやっていないッ!」
机を叩き、俺の怒鳴り声が取調室に響いた。
「まあまあ落ち着いて。カツ丼あげるからさ、罪を認めなよ。今認めたら、罪を軽くしてあげるから、さ?」
「だから俺は──」
「でも、ねぇ……? 日向議員、キミの鞄からは麻薬が見つかった。そして、書斎には市場には出回っていない睡眠薬が置いてあった──」
「全て、俺に恨みを持った誰かが、貶めようとしたに違いない! お前ら警察は、真犯人を見つけることもまともに出来ないのかッ!」
このジジィ……
どうしても、俺を犯人に仕立てあげたいらしい。
でも、お前の人生は終わりだ。
法律で、不当な誘導は禁じられている。取り調べが終わったら、すぐに弁護士に訴えてやる。
「困ったねぇ……」
「だから俺は──」
「じゃあ。裏金の話は、どう言い訳をするつもりだ?」
突然ジジィの声色が変わり、思わず固唾を飲んだ。
なんだよ。なんなんだよ。
たしかに、裏金の件については心当たりがあるが、どうしてそれもバレてんだよ。
証拠は一つも残してないはず。
「う、裏金……? ははっ、冗談やめてくださいよ」
「瞬きの回数が増えた。どうやら、薬物の件は白だが、こっちの件については、真っ黒のようだ」
「ち、違っ──俺は何も──!」
「取引には、いつも暴力団を間に挟んでいたようだね」
「…………は」
それ以上、言葉が出なかった。
「暴力団も色々やらかしてるから、キミと一緒に捕まえられて、一石二鳥だよ」
俺は、目の前で冷たく笑うジジィから、目が離せなくなってしまった。




