第57話:龍生父の記憶
2024年9月2日
龍生が倒れたことを知ったのは、今後の活動方針を決める大事な会議が終わってすぐだった。
意識を失っている上に、呼吸困難な状態らしく、病院に駆けつけた頃には集中治療室で治療を受けていた。
「龍生、くん……」
「君は──龍生の友達かい?」
「……はい。一緒にいたら、いきなり倒れちゃって……」
「その話を詳しく聞かせてもらおうか」
彼女は恋春と名乗った。
よく見ると、過去に付き合いがあった取引先の社長の娘だ。
今は疎遠になっているが、一年に一度くらいの頻度で、一緒にゴルフを嗜んでいる。
周りに人目があったので、秘書に頼んで喫茶店まで移動した。
車での移動だったが、彼女は一言も発さない。
目の前で人が倒れたんだ──当たり前か。
「早速だけど、あったことを一部始終話してくれるかい」
「龍生くん……何もしてないのにいきなり倒れたの」
「いきなり? その直前に何かしていたかい?」
「──薬を、コーヒーに混ぜていました」
「薬?」
飲んだだけで気を失う代物だ。
市場に出回っていない物の可能性がある。
俺は刑事事件の可能性も念頭に置いて、秘書達に龍生の部屋の掃除を命じておく。
「──他に、わかることはあるかい?」
「いえ……急だったので、記憶が曖昧で……」
「わかった。また何かわかったことがあったら教えてくれ」
「はい」
生意気なバカ息子──龍生とは違って、洗脳しやすそうなガキだ。
──どうせ龍生の顔に釣られて来たのだろう。
面倒事が起きた時には、彼女を身代わりにするとしよう。
密かに企んで、俺達は別れた。
2024年9月6日
恋春の証言は正しかった。
龍生の体からは、致死量の睡眠薬が見つかった。
やはり俺の予想通り、市場には出回っていない物だ。
日向家の跡取りが、違法な薬物を所持していただなんて、世間に知れ渡ったらとんでもない事になる。
だが、金の前では中堅の医者ですら、簡単に尻尾を振った。
世の中金だ。
──人も、権力も、金さえあれば手に入る。
俺は胸の奥から込み上げてくる笑みを堪えるので、精一杯だった。
しかし、こうして笑っていられたのは、少しの間だけだ。
耳を疑いたくなるような悲報が舞い込んできたのは、医者に裏金を渡した直後のことだ──
「日向議員。ご子息の件が、マスコミに知られています……!」
「何だと? 情報が広まらないように、策を講じたはずだ」
「それでも、ネットニュースを見たらこんな記事が……」
新人の彼は、慌てた様子でスマホの画面を見せてくる。
そこには、大きく『日向議員、違法薬物所持の疑い』と書かれていた。
待て──色々とおかしい。
「俺は薬物を所持していない。こんなの、デマに決まっている」
「ですが、ご子息の件と時期が被るなんてこと、あり得ますかね……」
「誰が情報を流したか、今すぐに洗い出せ」
「しょ、承知しました──!」
新人はすぐにスマホを操作して、他の秘書達に命令を伝えた。
たとえ手荒な真似でも、俺に喧嘩を売ったことを、後悔させてやらないと気が済まない。




