第二十一話 融合進誕ドラゴノイド
そこには凡そ、理解できない光景が広がっていた。
「融合進誕」
最上級術である結界八咫烏をいとも簡単に打ち破り、眩い光を伴って現れたソレは、彼がかつて見たS等級モンスターの威容に相応しい姿をしていたのだ。
「龍装魔兵」
赤き鱗はまさしく龍のソレ。
二足で直立する軽鎧をつけたトカゲのような見た目だが、その内側から発される熱は立つだけで雑草が焦げて焼失するほど。
そう、だからアレを何よりもわかりやすく形容するのであれば。
「ドラゴノイド」
──龍人。
龍の鎧を身につけた人間ではない。
完全に鱗を持ち、長い顎、キレた瞳、尾をもつ間違いなく人間から外れた存在だ。
その絶対的種族として強者の彼が、俺の前に立ち塞がる。
かつて、俺の故郷を一夜にして滅ぼしたあの九尾の狐と同じように──。
—
俺は一体どうしちまったんだ。
視線は高くなり、腕はゴツゴツでムキムキ。
ソレは筋肉質になったとか、そんな生半可な変化ではない。
赤い鱗が生え、五指には肉なら簡単に切り裂けそうな爪が生えている。
ソレに目も良くなった。今までとは違い、明らかに狼狽している夜剣の姿がよく見えた。
(相棒! どうやらオレっち達は合体したみたいだ)
そんな時ボルクの声が不意に聞こえた。
反響するような不確かな音。
どこから聞こえているのかは判然としなかった。
(ボルク!? 無事か?)
(おう! どうやらオレっちは相棒に吸収されたみたいだ。主人格は相棒ッて事で、体を動かすのも相棒ッて事だ!)
(な、何だそりゃあ……)
吸収? 主人格?
何が何だかわからない。
現状がよく把握出来ていないのに、また訳のわからない事を重ねられると混乱する。
だがとりあえずわかることが一つだけあった。
「今の俺達ならヤレそうってことだ」
眼前にいるデュラハンを睨みつける。
狼狽する主人と違い、デュラハンは俺を確固たる敵として認知していた。
剣を構え、紫のオーラを剣に纏わせて、臨戦態勢。
「やれ! ドラゴノイドだか何だか知らんがお前の攻撃を防げるやつなどいやしまい!」
夜剣は明らかに焦っている。
俺の姿に驚いているのか、はたまた別か。
何にせよ、この勝負はおそらく──この一合で決まる。
「──────────────a!」
対するは無名の首なし騎士。
その手に持つ黒き剣は振るうだけで嵐を巻き起こし、斬撃に触れたもの一切を無に返すほどの破壊力を持つまごうことなき強者だ。
訂正。彼の溜めは前回のソレより長い。
黒きオーラは更に禍々しく色を変化させ、剣へと蓄えられている。
だがなぜか──心の余裕は、前よりあった。
「────!!!」
渾身の一振り。
世界の音を掻き消すほどの轟音と闇が津波のように押し寄せる。
否、今回は薙ぎではなく一方向に威力を集中させた振り下ろしだ。
溜め時間も相まって、先ほど受けたものとは比にもならない。
地面を掘削しながら突き進む闇の前には、何物をも無に返す絶対的な破壊しかない。
そんなものを一度受ければ、肉も骨も残らず無に還るだろう。
然れどやはり、俺の心は余裕だった。
不思議と理解していた。
きっとこの攻撃では──
「消し飛べぇぇぃ!!!」
夜剣の声がこだまする。
彼の決死の願いの言葉は、
「は?」
俺が一払いして黒い斬撃を掻き消すのと同時に消え去った。
そのまま、
「──瞬術! しかも完全な」
「豪炎」
俺は夜剣の歩法を真似して彼らの後ろに回り込む。
その手に身体の中に走る確かな感触を凝縮させてゆく。
その感覚はただの力の塊から熱へと変換され、拳に巨大な炎を生み出した。
ソレをそのまま振りかぶって、
「焼撃」
デュラハンの胴へと叩き込む。
めり込んだ拳はデュラハンの身体を軽々と吹き飛ばし、夜剣の真横を擦り抜けていった。
「デュラハン……」
呆然となった夜剣が振り返れば、その先には地面に力なく伏したデュラハンが。
もう彼には動く力も残されていない。
マスターである夜剣には、ソレが理解できたのだろう。
それ以上言葉を発することなくこちらに振り返った。
「参った」
勝負はあっけなく終わった。
俺とボルク、二人の勝利という幕引きで。
—
少し前、校舎に現れた結界八咫烏内では。
(な、何だこいつは!! 一体何なんだ!!)
色とりどりの花が咲く花壇に、緑が生い茂った中庭の原型はない。
土は術で隆起し、地面から生えた樹が触手のようにうねっている。
まるで大荒れした海の側のような津波が校舎と中庭の半分を覆い、今にも飲み込もうと牙を剥いている。
その全てが等しく、凍りついていた。
「はぁ……はぁ……」
赤髪の少女は周りを見渡す。
凍った津波の上で伸びる青髪の少女、草木に上半身が突っ込んでそのまま凍ってしまって、足をバタバタさせる緑髪の少女。
二人の仲間は既に戦闘不能だ。
あとは自分だけしか戦えない。
だというのに、
(こいつ! 息の一つも切れていない!)
眼前のステルクはケロッとしたように、氷結した世界の中、マフラーをたなびかせ、眼鏡を光らせている。
白猿はこちらを煽るように歯茎を剥き出しにして笑っていた。
「若……! 不甲斐ない我らをお許しください!」
速攻で手印を作り、己が撃てる最大の忍術で持ってして、立ち向かう。
だが、気付くより先にステルクは真横にいた。
「どういうことだ、我ら忍者を差し置いて」
「大丈夫。若も許してくれるさ」
赤髪の少女の肩に手をポンと置くと、目を見開いたと思えばそのままパタリと倒れこむ。
ステルクは途中で受け止め、ゆっくりと木を背に寝かせた。
「相手が悪い」
その瞬間、結界が徐々に解けて明るい世界が露わになる。
ステルクはその眩さに目を細ませて、
「あちゃーあっちも終わっちゃったなぁ」
自分の悠長さに頭を抱えるのだった。




