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第二十話 俺のマスタースキル


「ぁぁぁぁあああっ!!!」


「ボルク!!!」


 ボルクはデュラハンが放った黒の斬撃を、真正面から受け止めている。

 龍の鱗はとてつもなく硬い。

 腕を交差させるだけでも簡易的な盾になるのだ。


 だが──相手の攻撃力がそんなものでは防げないほどに強力なことは、明白だった。


 俺の頬に血が落ちる。

 ボルクの鱗が斬撃により剥がれ落ち、肉が削られているのだ。


「く、くそ!! “治癒(ヒール)”!!」


 咄嗟に最後のサポートスキルを使い、ボルクの傷を治す。

 だが治した側からボルクの鱗はゴリゴリと削れて行き、再生速度を優に上回る斬撃に俺はただ見ているしかない。


「ボルク……!」


 その背が語る必至の抵抗に、ソレでも俺の体は動くことはなく。

 俺の周りの地面だけが扇状に残っていたことこそ、ボルクが防ぎ切った破壊の力を示していた。


 ボルクが膝を降り、その場に倒れる。

 それを間一髪で受け止めた。


「ボルク! ボルク!!」


「S等級がこの程度……? 白けるな。テイマーの練度が足りないか」


「な、なんだと」


 夜剣は嘲笑するように言った。


「故郷にいたS等級モンスターはこんなものではなかった。それこそ、神話の大戦を再現するかのような戦いを繰り広げていた。俺は、そいつを倒すために強くなる必要がある。だからこそ、S等級のドラゴンを初めてテイムした貴様らに興味があったが……今はもう無い」


 夜剣は悠然と歩を進める。

 刀を振りかぶり、妖艶な紫のオーラが刀から発露する。

 魂を寄越せ。魂を寄越せと、言うように。


「とっとと敗北を認め、俺に魂を献上せよ」


「……くそ」


 ボルクは死に体だ。

 サポートスキルは使い切った。

 最早、ここから勝つ方法などありは──。


 絶望に項垂れた時、ボルクの尾が視界に入った。

 フリフリと振る尾は力無かったが、それはまるでまだ彼が戦えるぞと言っているようで。


「ボルク?」


 顔を上げるとそこには、まだ闘志が消えていない戦士がいた。


「まだ、ヤレるよな?」


「────────、」


 その(まなこ)はまだ諦めていない。

 強がりでも、見栄でもない。

 まだボルクは一切負ける気がないのだ。


 俺は両頬を叩いて、痛みで恐怖をかき消した。

 全く。ちょっと凄いやつにあったからって、ネガティヴになるなんて俺らしくない。

 俺は親指を立てて、ボルクに応える。


「あぁ、当たり前だろ!」


「さすが相棒だ!」


 二人で向き合う。

 相対するは恐らく学園内でも最強の存在だ。

 あれが実は上から四番目、とか言われたら目も当てられない。


 相手が学生の中でもトップだと考えると、寧ろワクワクしてきた。

 そうだ。俺はいつでも、前向きな姿勢で持って生きてきた。

 この壁が、どんなに高くても超えてみせる。


 ボルクと一緒なら。


「行くぞ!!」

「おう!!」


「なに?」


 掛け声に合わせて同時に(・・・)走り出す。

 夜剣は明らかに狼狽した。

 そうだよな。テイマーがモンスターと一緒に戦うなんて、普通じゃない。


「だが、テイマー一人参戦した程度で覆る戦力差ではない。薙ぎ払え、デュラハン」

「────────!」


 デュラハンは夜剣の言葉を受けて、首元の紫色の炎を燃え上がらせた。

 剣を振り上げ、黒いオーラを剣に纏う。

 もし再び黒い斬撃(アレ)を放たれたら、俺らに勝機はない。

 だから俺は、


「うおおおおおおお!!!!」


「な」


 危険を承知でデュラハンに組みついた。

 脚は脚で固定し、腕を全力で押さえ込む。

 物凄い力だ。中に誰も入っていないとは思えない膂力だ。


 ソレでも。


「まけなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃいつっっ!!」


「き、貴様!! 何のつもりだ! そんなことをしても!!」


 咄嗟に離れていた夜剣がデュラハンの元へと駆け寄ってくる。

 だがもう遅い。俺が組みついた時点で既に布石は打たれたのだ。


豪炎(メギド)!!!」


「死に損ないのドラゴン……!?」


 自慢の跳躍を持って空中に飛び出すボルク。

 その口には既に超高熱の炎が凝縮されており、眩いまでの光を放つ。


「バカめ、そのブレスは効かないことを忘れたか! マスターが山賊焼きになるだけだ!」


「一緒に吹き飛ばすつもりでやれぇぇぇっっ!!!」


 デュラハンは何とか逃れようともがくが、黒い斬撃を放つ体勢では上手く力が入らないのか、何とか俺も食い付いている。

 夜剣が間に合うより先にボルクの攻撃が炸裂すれば、俺らは勝利に一歩近づく──!


突撃(ドライブ)!!!」


 ボルクはその炎を飲み込み、全身に炎を纏う。

 本来、炎を吐き出して相手を焼き尽くす攻撃を、己が身を炎で包むことによりその破壊力を高める突進攻撃!

 俺がマスターレベル二になったことで会得した、ボルクの新しい技だった。


 龍の炎を纏ったボルクが無防備なデュラハンへと突撃する。

 俺はデュラハンが防御の体勢に移らないよう、最後の最後まで身体を押さえて、そして。


「ぁぁぁっっ!!」


 ボルクの攻撃が炸裂。

 同時、踏ん張れない爆風に宙を舞った。

 視界は回転し、どうしようもない浮遊感に続く重力。

 今自分がどういう体勢なのか、判断出来ていない。

 この状態で落ちれば最悪、とその時。


「相棒ー!!!」


 爆煙の中から赤い影が飛び出して俺をキャッチする。

 意識も追いつかない速度で飛ぶ俺をキャッチしただけでなく、そのまま負担をかけないように着地した。

 まるでお姫様抱っこのような状態になった俺とボルクは、あまりのバランスの悪さに笑いが溢れた。


「普通は逆だなこれ。ありがとう」


「相棒が最後まで離さなかッたおかげでアイツに直撃だぜ。これで少しは」


 そこまで言って、妙な気配に俺らは同時に爆煙を確認した。

 煙を晴らす黒いオーラ。

 その中から現れるのは、無傷のデュラハンだった。


「嘘、だろ」


 爆発で吹き飛んだからこそ分かる。

 あの攻撃は生半可なものではなかったはずだ。

 それでも尚無事とは、目を疑った。


 だから気づく。

 デュラハンの鎧の周りを薄い障壁のようなものが覆っていることに。


 煙が全て晴れ、隣に立つ夜剣の腕には魔術で構成された輪が、ガシャンと音を立てて回転していた。


「サポート、スキル……!」


「“瞬盾”。一秒しか保たない代わりに、上級魔術までの攻撃を完全に防ぐ。さすがに驚かされたな」


 希望が絶望へと転換する。

 あの一撃は渾身のものだ。

 俺の身体はまだ動くが……、


「行けそうか、ボルク」


「当たり、めェだろ……!」


 最早ボルクの息は絶え絶えだ。

 瞼は今にも閉じそうに、身体中傷だらけで見てる方が辛い。

 だがそれでも、相棒が戦いたいと望むのなら、それを叶えるのがきっと──マスターというものだろう。


「まだ諦めない……か」


「当たり前だ。俺たちは二人で一つ! どんな壁でも、二人とも乗り越えてきた! これからは一緒に乗り越えていくのさ!」


「それが、天を穿つほど高い壁でもか」


「「高さは関係ねぇ!!」」


 二人の声が一つになる。

 マスターライトが変化した、俺のグローブが白く光輝く。


「どんなに高くても!」

「どんなに分厚くても!」


 グローブの数字が淡くブレる。

 力が心の奥から湧き立つ。


「「二人で乗り越えて行くんだ!!」」


 宣言と共に、俺の心にとある声が浮かんだ。

 この力を使え、と。

 そう言わんばかりに、グローブが光って主張する。


「マスタースキル、発動!!」


「何……このタイミングでマスターレベルアップ、だと?」


 グローブの数字は確かに三へと変わっていた。

 今なら何でもできる気がした。

 ボルクと俺となら。


 二人なら(・・・・)


「融合進化!!」


 眩い光が俺たちを包む。

 光の柱は黒い結界を内側から破壊して、太陽の光が少しずつその内を照らしていく。


「バカな! 八咫烏(やたがらす)が!?」


 まるで溶けるような感覚は、暖かいものだった。

 水の上に浮かんでいるような。

 そのまま、ボルクと混じり合い、そして。



融合進誕(ゆうごうしんたん)龍装魔兵(りゅうそうまへい)、ドラゴノイド」



 俺とボルクは合体して、一つとなった。

 文字通り。

 一つの生命として。


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