第十九話 黒き死を齎す斬撃
(驚きました……まさか解言を使用しなければ召喚できない、A等級のモンスターを使役しているとは)
魔力を全損したレムは、それでも少しずつ地面から土を自らに吸収して体を再生する。
盛り上がる地面を椅子代わりに、その視線の先は一触即発の戦いの場だ。
とても今の自分では介入出来ない。
(歯がゆいものですね。無力というのは)
それでもレムにはこの戦いを見届ける義務がある。
護るべき対象を守れなかったこと、その対象に守られてしまったこと。
この罪を濯ぐには、自分がこの戦いの一部始終を見届けなければ。
そうして、遂に戦いの火蓋は切って落とされる。
先手を撃ったのは──
–
「豪炎咆哮!!」
ボルクの口から炎が溢れる。
溢れた炎が形を成して、指向性を持って放たれる。
周囲の温度が一気に数十度上昇するほどの熱量だ。
たかだか鉄の鎧程度、一瞬で溶けてなくなるはずだ。
それを。
「払え」
「─────」
夜剣の一言で、デュラハンは片手でかき消した。
「な──────」
初っ端から全力を振り絞った。
ボルクが持つ必殺技にして最強の技だ。
あの太刀打ちも出来なかった黒猿を一方的に叩きのめした、俺たちが誇る自信の技だ。
その技が、片手で払った程度で掻き消された?
「嘘だろ……」
「相棒! どうすんだ!」
焦りに混乱する俺とは違い、ボルクは冷静に俺に問いかけた。
そうだ。これはテイモンバトル。
勝つ為にあらゆる策を考えて実行するしかないのだ。
炎が無理でも、ボルクにはまだ武器がある。
「仕方ない! 直接攻撃で行くぞ!」
「おうさ!」
その手から生える三本の鋭利で太い爪を光らせて、ボルクは吶喊する。
ボルクはそもそも炎は最近吐けるようになったんだ。
それまでの戦いだって、圧倒的膂力で敵を薙ぎ倒してきた。
炎を吐いて倒すという彼のこだわりのせいで負け続きだったが、そもそものスペックは高い。
「うおおおおお!!」
「やれ、デュラハン」
「──────」
夜剣に応えるようにデュラハンは剣を構えた。
デュラハンの股下程度の身長差があるボルクだ。攻勢に出られたらひとたまりもない。
だからこそ、高い機動力を活かして、鈍重なデュラハンを撹乱する。
デュラハンの背後を確実に取ったところでボルクは跳躍、その鋭い爪を振り上げて貫かんと突き出した。
しかし、
「──────」
「んなっ──が」
胴体だけがくるりと回転して、ボルクを剣で薙ぐ。
不意の、生物には出来ない動きに惑わされボルクは直撃を喰らって真横に吹き飛んだ。
「ボルク!!!」
「問題ねェ! サポートスキルを!」
「あぁ!! “強化”!」
右腕に走る三つの輪。
ソレは一回の戦いで一度しか使うことが許されない、瞬間的に発動ができる魔術式サポートスキル。
俺はその一つを叫び、手をかざす。
ガシャン、という音と共に輪が回転して、スキルが発動する。
強化により、ボルクの膂力は更に強くなった。吹き飛んだ勢いをそのままに、跳躍して突っ込んでいく。
「突っ込むだけか。馬鹿の一つ覚えだな」
「なんだと!」
「サポートスキル“雷”」
「な!?」
聞いたこともないサポートスキル。
夜剣はその指を天に向けると、ガシャンという音と共に、彼の腕に巻かれた四つの輪の一つが回転する。
赤光が差し込む空は快晴だ。真黒な結界を擦り抜けて届けられる太陽の光は、ソレを隠すことなく伝えてくれる。
だからこそ異常事態がよくわかった。
その太陽が消えた。
ゴロゴロという聞き覚えのある音を置いて、雷が夜剣に落ちる。
その雷が腕に帯電し、ゆっくりとその指先がボルクへと向けられ──
「サポートスキル“回避”!!」
「あいぼう? ──わ!?」
間一髪。
デュラハンに特攻するボルクは空中からその姿を消し、数メートル離れた場所へと飛ばされる。
直後、ボルクがいた場所に強烈な光が放たれ、その先の地面は爆発する。
雷が真横に落ちた瞬間だった。
煙を噴き上げる夜剣の指先。
彼がその雷を落とした本人であることは疑いようのない事実だ。
ソレに、
「なんでお前、四つもサポートスキルを!」
「なぜ? そうか、知らんのか」
そういうと、夜剣はその手に持つ刀を俺の前に突き出した。
浮かび上がる数字は──三。
「マスターレベル三……!? ソレより、その刀がお前の!」
「マスターライトだ。そして、準備できるサポートスキルが四つになるだけが、レベル三に与えられた恩恵ではない」
夜剣が刀を振り上げる。
刀が怪しい紫の光を放ち、デュラハンはソレに応えるように首元の青い炎を増大させる。
「その者だけが使えるマスタースキルを発現する! 俺のマスタースキルは“モンスターの能力を覚醒させ、能力値を五倍に引き上げる“真化”!! 薙ぎ払え、デュラハン!!」
夜剣の掛け声に合わせ、明らかにデュラハンの力が増大する。
首元からの青い炎は紫色に変わり、そして構える剣からは黒いオーラが放出される。
あれは絶対にまずい──!
しかも、俺も巻き込まれるほどの広大な範囲を破壊する一撃だ。
その威圧に気圧された俺は尻餅をついて、動けない。
「ゼンシン! 何をしているのですか! 今すぐ立って逃げなさい!!」
後ろから誰かの声がする。
でももう鼓膜を震わすだけの雑音だ。
俺の脳は無音に包まれ、刀を振り上げ黒い闇を撒き散らす首なしの騎士しか映らない。
そして彼は振り下ろす、黒き死を齎す斬撃を。
黒く禍々しい魔力の光は、全てを無に返す破壊の力だ。
デュラハンが横薙ぎに放った飛ぶ黒い斬撃は、嵐と見間違える程膨大な魔力を纏っており、地面を抉り、あらゆる生命を奪っていく。
その凶悪さと破壊の力は今まで見たどの攻撃より鋭く、恐ろしい。
視界の全てが黒で埋め尽くされ、絶望に死を覚悟したその時。
「ゼンシン──!!!!」
眼前に飛び出した赤が、その黒を止めたのだ。




