表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の香り  作者: 蒼生光希
PR
5/6

転機

 走る僕を、通行人が避けていく。

 鍵を開けるのももどかしく自宅に入ると、もう限界だった。


「うっ、うわぁあ……」

 ぱた、ぱたと涙が床に落ちる。


 苦しい。


 好きなのに、好きだから、離れるしかなくて。

 あの香水も、脱退した夜に捨てた。

 そんなことも知らないだろ。


 暗い部屋で、自分の苦しさを吐き出すように泣く。それしかできない。

 それしかできない奴なのに。


 なんで僕のことを歌ってくれるんだ。


 絶対に届かないのに、自分の感情だけでこんなに思い焦がれて、馬鹿みたいだ。


「共に春を」と歌う声が頭にリフレインする。

 トモ、と僕を呼ぶ声がよみがえる。


 外がすっかり暗い。

 泣き疲れた頭がぼうっとする。


 よろよろと立ち上がった時、携帯が鳴った。

 画面に、後輩の名前。


「もしもし」

 涙声を抑えて取り(つくろ)う。


「主任! すみません明日って()いてます?」

「え?」


「急なんですけど、友達が体調崩してライブいけなくなったんです、だから空いてたらどうかなーって」

「他の友達とか」

「いやもう連絡しましたよー! 友達に兄弟、親にまで片っ端まで声かけたのに皆都合悪くて」

「うーん......」


 落ち着いた態度を(よそお)ってたけど。

 頭は混乱していた。


 デビュー前に逃げた奴が、しれっとライブを観に行く?

 それは、どうなんだろう。


 めちゃくちゃ迷惑をかけたのに。


 でも......あれから5年経って、3人は僕の不在なんてもう関係なく成功していて。

 だけど、それでのこのこ観に行くのは......いいんだろうか。


 行ったって、つらくなるだけかも。


 でも、でも、でも。


 無言の僕に、後輩は手応えを感じたのか、電話の向こうでライブの魅力を語り続ける。


「新曲もやるらしいんですよ、あの、『香水』」

「え、じゃあ......行くよ」


 喜ぶ後輩。

 僕は悩んだ割に、あっけなく陥落した自分に驚いていた。


 でも、天啓(てんけい)のように感じたんだ。

 あの曲を、生で聴きたい、って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ