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君の香り  作者: 蒼生光希
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2/6

明、5年後

「蓮司さん、俺さ、最近あいつの顔がちらつくんだけど」

「あいつって」

「智春」


 曲ができない、とぼやく俺を、蓮司さんはドライブに誘ってくれた。

 冬の早朝、海が見える写真撮影スポットに、黒いカマロを停める。人気(ひとけ)はない。


 外に出て、俺は白い息を吐いた。二人とも眼鏡に帽子。デビューして5年、ドームツアーまでやるようになった俺たちは、変装しないと外を出歩けない。


 自販機を見つけて、コーヒーと迷ったあげく、はちみつレモンを選んだ。「喉は大事にしないと」と誰かに言われたな、と考えて、トモに行き当たったのだ。

 あれからずいぶんと経つのに、トモはこんな風に俺の頭に顔を出す。


「トモか。今頃何してるんだろうな」

「蓮司さんには連絡こないの?」

「来てたらお前に言うよ」

「だよね」

 俺は蓋を開け、甘い飲み物で喉を温めた。


「トモもさ」

「うん?」

「あの時、調子が悪いだけじゃなくて、バンドを抜けてでも守りたいものがあったんだろうなーって、最近思うんだ。

 教えてくれなかったのがしゃくだけどさ」


 突然、パシャ、パシャとカメラの音がした。


「蓮司さん」と少し困って先輩を見ると、彼は「いい表情」と笑った。

 蓮司さんは最近俺やマサの写真をよく撮る。腕がよく俺の写真集、雑誌、CDのブックレットにも使っている。

 器用だな、と思う。


 俺ももっと器用で大人だったら、トモを引き留められたんだろうか。



「あのさ、曲にしてもいいかな、あいつのこと。

 いい曲ができそうなんだ」

 蓮司さんは驚いて、しばらく考えた。


「いいけど、マネージャーから言われたこと忘れてないよな」

「うん、オーダー通り、恋愛ソングにするよ」


 携帯で時間を見たついでに、写真を見返す。

 仁美はすっかり立派なお母さんだ。俺がバンドに没頭できるのも彼女のおかげ。隣には娘が映っている。俺の小さなお姫様。


 事務所より世間より、娘が一番俺を大人にしてくれた。生まれた時「この子に恥じない男になりたい」と思った。今もだ。

 やんちゃだった俺はもういない。


 今の俺をトモが見たらびっくりするだろうな。

 もう、会えないだろうけど。


 蓮司さんが心配そうに俺を見ている。

 「戻ろうか」と、笑顔を作る。俺はリーダーの分まで空き缶を捨てにいった。


 帰りの車の中で、歌詞とメロディーが頭の中に降ってきた。

 軽快な走行音をBGMに、俺は携帯に録り始めた。

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